安倍晋三首相が、持病の潰瘍性大腸炎によって突然辞任した。心からお気の毒と申し上げる。早く健康を取り戻して、再び政治に関与して頂きたい。7年8ヵ月、安倍一強と言われる状況でも念願の憲法改正が出来なかったことは痛恨の極みだろう。
安倍政治について各紙が様々な評価を与えてきたが、最悪なのは朝日新聞である。この新聞だけ読んでいると、安倍政治が残したのはモリ・カケ問題と桜を見る会の無駄だけだ。モリ・カケ問題について当の籠池泰典氏と子息の籠池佳成氏の2人が雑誌「WiLL」7月号にそれぞれ手記を書いている。これを読んで不思議だったのは“不祥事”に仕立て上げたのは左派ジャーナリストの菅野完氏と福島瑞穂議員の内縁の夫である海渡雄一弁護士だったという。だとすれば運動のプロが素人を手玉にとって問題を作り出した構図である。
桜を見る会も盛大な浪費だとして騒がれたが、8年も内閣が続けば、新しく活躍した人を招待し、数が増えるのは当然だろう。
要するに野党はモリ・カケ、花見で国会を空転させ、憲法改正問題に着手させまいとした。議会政治の中で卑怯な手口を使った。
安倍政治が無かったら、中国の軍事的脅迫にどう対応すればよかったのか。国民は日米安保条約の存在で米軍が戦ってくれると思い込んできたが、憲法解釈では「条約を結ぶ権利はあるが行使はできない」というものだった。安倍氏は「そういう解釈は国際上あり得ない」と主張する小松一郎元外務省条約局長を内閣法制局長官に据えて「権利もあり、行使もできる」と変え、その下に一連の安保法を作り上げた。
続いて対中政策として「自由で開かれたインド・太平洋戦略(構想)」を編み出した。日米豪印が共同でインド洋、太平洋の安全を守る。安定を阻害する要素が出てくれば、共同して排除するという構想を共有するわけだ。
トランプ大統領との親密な関係もこの構想を強化した。すでに英、仏も賛成を示している。世界的な権威を再構築することは極めて難しい問題だ。トランプ大統領は経済的にも中国を切り離そうとしている。米ソ冷戦の時は、米ソがそれぞれの勢力範囲を固めて張り合った。ソ連が負けたのは技術力の差だった。米中の技術力は交じり合って分離不能のように見えるが、トランプ氏は“分離”にまで突っ込む構えだ。すでにファーウェイの“輸入禁止”にまで突っ込んでいる。中国を技術的に孤立させれば、その先に負けはないとの考え方だ。大統領職にトランプ氏が就くかバイデン氏が就くかによって、中国引き離し政策も変わってくる恐れがある。中国は一帯一路政策によって、勢力を拡大したが、工事のやりすぎで、財政破綻に陥っている国が多い。中国側から寝返る国も多いだろう
憲法改正は憲法を議論するという政党が野党第一党になれば、議論が始まる。審議拒否などという言葉は無くなるはずだ。
(令和2年9月2日付静岡新聞『論壇』より転載)