米中戦争の皮切りは、米国のファーウェイ(華為技術)潰しから始まった。米国が特定の会社を叩く理由は、ファーウェイが卑劣な手段で業界を支配する地位を築き上げたからだ。一方中国は自由競争で勝ち残った会社を国力を使って潰しにかかるのは許せないという。中国の言い分が正しければ世界は米国の暴挙を非難するはずだが、各国はファーウェイ退治は自由な市場を取り戻すためで、自由市場の再整理が必要だと認識している。
1980年代、日本の電機会社は軒並み半導体製造に成功した。半導体は他国が作れない“資材”である。日本人が手にかけなければ出来ない“無類の資源”だからこれで一生暮らせるという論さえ展開された。ところが今、その日本独自の人工資源の製造は韓国と中国が主となっている。中国の半導体はかつての日本製と組み立て方までそっくりだという。問題は、中国の国営企業でも民間企業でも国から補助金を貰って競争力を格上げしてきたことだ。産業補助金と税優遇措置の2つを政府補助金という。笹川平和財団によると中国の全上場企業3,683社の有価証券報告を集計したところ2018年の補助金総額は1,551億元(2兆2,467億円)にのぼった。非上場企業への産業補助金支給額は全く不明だという。
半導体の製造法を真似された上、補助金付きで市場で勝負されれば勝ち目はない。当時は負ける理由を労賃の安さとみていたが、WTOではっきり禁止されている政府補助金を自在に使っていたのが真相だ。
日本の主要パソコン事業は日立製作所がコンシューマーPCから撤退、東芝は鴻海精密工業傘下のシャープにより買収された。富士通とNECはLENOVOに売却、ソニーは投資ファンドに売却された。
これらの市場は、中国がいずれ自由主義体制に代わり、取引も公正、自由になるということを前提にしてきた。世界が同一市場になるならどんな部品でも、どこで作っても良いという考え方も生まれた。しかし中国の詐欺的貿易手法が明らかになり、トランプ大統領はファーウェイが市場を支配する主敵とみなした。
全世界の3割以上もの占有率を持つ大企業を潰す手法は、まずファーウェイ商品の全面禁輸。次に米国が製造した半導体などの部品供給の停止である。帝国データバンクの調査による2020年1月時点で、中国に進出する企業は13,646社。各社の中に中国共産党の組織が設置され、その統制監督を受けている。
世界は中国の壮大なるペテンに引っかかったのである。米ソ冷戦は領土で仕切って対立したが、米中対立は科学の融合だから、簡単に分離するわけにはいかない。しかし米英などファイブ・アイズ(米・英・カナダ・豪・ニュージーランド)に続いて独仏も同調する気配だ。
(令和2年9月23日付静岡新聞『論壇』より転載)