「日米の対中政策」
―中国の根本的民族性を理解すべき―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 トランプ大統領は地球上の要衝を引っ掻き回した。それが外交上どう結びついているのか、次の手があったのかが不明である。その中でもっと念入りにやってほしかったのが対中政策である。米国中に潜り込んだ中国のスパイを研究所、大学、企業から追い出した。中国はスパイ網を「千人計画」と称して米の科学技術を根こそぎ強奪していった。中国の科学技術は三流だったのに、ある日、二流を飛び越えて一流になった。中国の思惑は2035年には産業技術でトップに立てるというものだ。
 バイデン新大統領が、この中国叩きを続ければ2035年問題は片付くはずだが、中国は自信を持っているという。
 米ソ冷戦時代は、米かソに付く国々が領土によって対立した。科学技術の水準は問題がないほど米優位だった。しかし米中対立の時代となると、領土で区切れるほど、単純な様相ではない。グローバリズムの名の下に、米国の戦略技術も中国や世界各地に散らばって生産されている。グローバリズムという考え方が世界にまんべんなく広がったのは、共産中国も仲間に入れればいずれ自由主義国になる。なれば付き合いの条件も同じになるという途方もない理想を描いたからだ。こういう世界思想をもたらしたのは前民主党大統領オバマ氏である。バイデン氏はカナダ、英国、フランス、ドイツの各首相と9日~10日電話会談したが、その際「米国は帰ってきました」(Amerika is back)と述べたという。トランプ氏はパリ協定など国際条約から抜けたが、そこに戻るという見方もあれば、「オバマ式不戦主義」に戻るという観測もある。そうだとすればトランプ氏がぶち壊した米中関係が元戻りする最悪の事態になるかもしれない。
 一方、日本では財界は日中和解の一点張り。重要企業の支店は引き上げるという知恵はない。菅首相や安倍前首相は日中関係を普通の関係に戻すために、習近平氏の訪日を誘おうという思惑がある。習氏訪日の返礼は天皇訪中しかない。
 中国はいま隠れた敵国である。世界中がそう認識している。その中で日本の天皇が訪中するのは、中国の敵対的態度を日本は許していると評価されるに違いない。
 習氏訪日を望んでいるのは、二階俊博自民党幹事長で、その言い分は「古い関係の中韓を大切にしなければならない」との理由だけである。「古い知り合いとケンカしてはならない」という言い分は承知しているが「ケンカしなければならない時がある」ことも承知していなくてはならない。
 戦中に中国史あるいは東洋史を勉強した人達は、中国に頭が上がらないのが普通。しかし日本人はたった2000年の間に気高い道徳国家を作り上げた。中国は4000年かかっても平凡な道徳国家もできなかった。その民族性の違いを日本人も自覚すべきだ。
(令和2年11月18日付静岡新聞『論壇』より転載)