「一国二制度」を50年間守るはずだった中国政府は、23年で香港を事実上併合した。国際約束を守りつつ、統合の方法を住民と相談するという、やわな観測は一挙に消し飛んだ。これで台湾に対する一国二制度方式も消えたと全世界が悟った。中国は「一挙に台湾も占領する」思惑だと全世界の人は信じ始めた。
台湾人は中国との統一を全く望んでいない。産経新聞の矢板台北特派員によると、与党民主進歩党系のシンクタンク、台湾民主基金会が11月中旬に行った世論調査で、中国が台湾に侵攻した場合「台湾のために戦う」と答えた人は79%にも上った。中国寄りだった中国国民党系のシンクタンク、両岸発展研究基金会が行った同様の調査でも、「戦う」との回答は77.6%に達していたという。この数字は、与野党ともはっきりと「独立」を指向していることを物語る。
直近の総統選挙で、蔡英文総統の支持率は一時、敗北寸前まで落ちたが、対中国強硬路線を打ち出すと、圧勝するまでに反転した。かつて台湾人には「二制度」あるいは「このままの体制」を望む人たちが半分近くいた筈だ。だからこそ民進党と国民党が交代で政権を取れた。しかし目下の国民世論を見ると、台湾全体として独立志向である。台湾に自由と民主主義、基本的人権を根付かせたのは李登輝氏だ。民主主義陣営の日本と同じ価値観を持つ台湾が、共産主義国に潰されることは許されない。
目下、国際的に懸念されるのは、米国の政権交代の隙を突く形で、中国が尖閣、台湾を一挙に攻撃する事態である。この場合、米軍が台湾防衛に出撃する筈だ。米国と同盟を結んでいる日本も当然、防衛に参加しなければならない。米政府は最近、台湾に空対地巡航ミサイル(SLAM-ER)135発など総計18億ドル(1,900億円)相当の武器を売却した。トランプ政権4年間に、台湾に売った武器の総額は約174億ドル(約1兆8千億円)にも上る。最新兵器を売却したことは、米政府がその国を断固守ろうとしていることの証左だ。
台湾は先の大戦で“日本人”として戦ってくれた同朋だ。その恩を返すには台湾を守ることしかないだろう。
日本はこれまで台湾のために、表向き何の貢献もしてこなかった。日本の野党は「反日主義」と呼ばれる如く、向こう側、共産主義側に立った議論ばかりを述べ立てた。与党の政治家も、台湾の方を向くと中国側から横面を引っ叩かれることばかりを恐れてきた。
台湾人は今や支配を迫られれば、自由のために「戦う」と言っている。紛れもない同志、同朋である。同朋の正義について理解を深め、支援すべきではないか。
中国の王毅(おうき)中華人民共和国国務委員兼外相は11月末、訪日し、茂木敏充外相と共同記者会見をした。王外相が沖縄県尖閣諸島について「中国に領有権がある」と主張したのに対し、茂木外相は沈黙した。主張すべきことを言わないのは敗北である。
(令和2年12月9日付静岡新聞『論壇』より転載)