「『自由で開かれたインド太平洋』を守るために」
―自由、民主主義、基本的人権と共産主義の戦い―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 米中対立を大国同士の覇権争いと認識している人がいるが、ただの覇権争いなら勝った国が次の大国を叩くという構図になる。これは根本的な認識違いだ。米中の争いは自由、民主主義、基本的人権を守る側と全世界を共産主義に染める側との戦いだ。米ソ対立はソ連が負けた結果、ソ連は曲りなりにも自由国家に変質した。
 戦後の日本は、隣近所と仲良くするのが外交と心得てきた。相手に好意を持たれたいがために「南京大虐殺30万人」や「従軍慰安婦」を黙認し、尖閣諸島を攻撃されても黙っている。中韓が念じているのは、日本を困らせたい、屈服させ得をしたい、というだけであって、争いの目的自体は泥棒根性だ。
 世界の各国が真っ当な民主主義国家になれば、世界平和が訪れるはずだ。今日本の外交は中国を抑え込んで共産主義、あるいは独裁国を潰すことが基本でなければならない。最も好ましいのは、日米の軍事力と経済力によって、中国の軍事力行使を抑制することだ。
 安倍晋三前首相が打ち出した「自由で開かれたインド太平洋戦略」こそ、中国封じ込めの決め手である。その基軸国として安倍氏は日米豪印の4ヵ国を挙げた。この構想に仏、英が賛成し、中国と親密だった独までが、南太平洋の平和のために軍艦を出すとまで宣言した。日米の政策に同調する国々が続々と集まっている。
 これに先立ち中国は、先進国の科学を利用して軍事技術の向上、経済力の向上を実現してきた。一方で「一帯一路」と称して途上国の鉄道や港湾を建設してきた。コストが高くて事業国が借金を払えず、返済に苦しむ国も多い。中には中国に借金のカタとして明け渡した事例もある。共産主義の新たな侵略方法だ。
 日本は米国と離れて独自の道を歩くべきという「親中論」がある。二階俊博自民党幹事長は自民党の中心に座して親中論をぶっている。茂木敏充外相は、王毅中国外相が「尖閣は中国の領土だ」と傲然とうそぶくのに反論もできなかった。
 菅義偉首相は、秋田に設置を予定していたイージス・アショアを取り止めた代わりの案さえ決められずに年を越すという。日中首脳の相互訪問の余地を残すために中国を刺激してはならないという説がある。習近平国家主席を招いて、自由か共産主義かの戦いにカタを付けられる訳がなかろう。相手に権威を与えない方が賢明だ。
 安倍氏は「非武装・中立」の風潮の残る世論に向かい、安保関連法制を成立させた。朝日新聞(12月18日夕刊)によると、安保法制成立時(15年9月)、賛成はわずか30%、反対は51%もいた。ところが20年11月には賛成は46%に増え、反対は33%に激減している。安保法制賛成派が毎年着実に増えてきた理由は「中国の脅威」だ。香港を見れば、1国2制度などが守られるはずがないことは一目瞭然である。台湾では中国が攻めてくれば「戦う」派が、与野党支持に関わらず7割に達している。ウイグル人は自由のために戦っている。日本も世界の自由のために戦う覚悟を決めるべきだ。
(令和2年12月23日付静岡新聞『論壇』より転載)