最近、文在寅政権の対北原子力発電所建設推進計画は「利敵行為」ではないかと大きな論争が起こっている。発端は監査院による月城原発号機(慶尚南道慶州市)の早期閉鎖に関する国政監査。この過程で産業通商資源省が2018年5月に「北朝鮮地域原電建設推進方案」などの文書を作成していたことが判明した。しかもこれらの資料は監査院によるPC回収の前日、産業資源省の公務員2人が密かに削除したファイルに含まれていた。監査院はこの2人を「監査妨害•職権濫用」の疑いで検察庁に身柄を引き渡し、検察の捜査により削除されたファイルは530件に及び、復元を通して北朝鮮原発建設推進関連の資料の存在が明らかになったのだ。
同年4月27日には文大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との第1回南北首脳会談が板門店(韓国側)で行われており、「徒歩の橋」で2人だけで話し合った際に、文大統領が原発建設構想を伝えた(USBで渡した)のではないかとの疑惑が急浮上した。
文政権は事実無根と否定しているが、脱北外交官出身の太永浩議員は国会対政府質問で丁世均総理に「将来、南北統一を視野に入れて北朝鮮の非核化という条件付きで対北原電建設の検討はあり得ることだが、なぜ計画文書を削除したのか」と追及した。太議員の指摘は問題の核心を突いている。これこそ、国民の不信と疑惑が膨らむ火種になっている。
文大統領は17年の就任早々に脱原発政策を打ち出し、その後、月城原発1号機の永久停止を決定。完全閉鎖する可能性もある。
韓国には月城1号機を除き23基の原子炉が稼働しているが、月城1号機をはじめ2、3、4号機が重水炉で、他は軽水炉である。重水炉は使用済み核燃料から核弾頭製造に必要なプルトニウムの抽出が容易で、重水減速材から三重水素(トリチウム)も生成できる。とりわけ月城原発から取れるトリチウムは水素爆弾の製造にも使われ、米国、カナダ、韓国の3ヵ国だけ生産できるという。これこそ、北朝鮮の金総書記が最も恐れる韓国の脅威であるわけだ。
北朝鮮としては、韓国の潜在的な核戦力基盤が脆弱化するのは願ったり叶ったりだろう。
*本稿は2月16日付『世界日報』に掲載されたコラムを部分修正したものです。