経済協力開発機構(OECD)の調査によると2019年の日本の労働生産性は時間当たり、47.9ドル(4,866円)で米国の77ドルの6割、37ヵ国中21位だった。前年から5.7%増えたが先進国中最下位という順位は変わらなかった。労働生産性が低いことについては、これまでも政界、財界が声を大にして叫んできた。菅総理大臣も成長を止めている諸規制を外せと言っている。行動派の河野太郎氏を担当相にあてて行革に取り組んでいる。先日河野氏が「ハンコ行政をゼロにする」と発言して党内に反発が起きた。騒ぎが起きたこと自体が行革の問題点なのだ。
私は外国に長く滞在したが、そこで働く日本人も決して怠け者ではない。フランスなどでは懸命に働く人に対して「彼は日本人並みに働く」などと評価する。労働時間の長さにも不足はない。勤務時間が長すぎるというのが真相ではないか。なぜ長くなるかは手順が規制で決められて、それが合理的でない場合は当然、生産性が落ちる。
国会で2年にわたって「モリカケ」問題が取り上げられた。この議論の中で最重要だったのは大学の学部新設の規制に尽きる。法律では学部を新設しようとするときは「文科大臣の認可を受けなければならない」と書いてある。ところが、告示(「大学、大学院、短期大学、及び高等専門学校の設置等に係る認可」)の基準で獣医学部の新設は「一切認可しない」との内容を定めている。要するに「告示」で法律の条文を大きく書き換えてしまっているのだ。官界では昔「課長は総理大臣より偉い」と言われたものだ。総理が議会で決めた法律より、課長が決めた告示の方が権限が強い。50年も前に行われた獣医師会と文科省との談合を告示によって保証したのである。委員会でこの告示の不思議を指摘され、議員は与野党とも「議会がなめられている」と怒る人がいなかった。犬猫の増え方はこの数十年間、異常である。獣医はぼったくりの様相だ。「一切認可しない」という闇の法律で獣医師会は保護されているのである。
国鉄は30年前、分割・民営化(JR)された。末期の収支は、年に赤字2兆円、累積赤字は27兆円だった。それが借金はゼロになり、赤字は黒字になった(コロナで均衡は目下崩れている)。人員は36万人から18万人に半減してサービスは格段に向上した。
国鉄同様、官営の社会保険庁は5千万件の不明年金者を出したと言われている。日本郵政も小泉行革で民営化されたが、あとの政権が現業を壊した感じがある。不正が続出した。
農林省の族団体が省にまとわりついていたようだが、業界しか得しない方法を押し通すと、どこかが無理を背負う。周辺は少なくとも生産性を上げるわけにはいかなくなる。
携帯電話の料金はべらぼうに高い。菅首相は「料金を4割下げよ」と号令しているが、なぜ電波オークションをしないのか。官僚が権限を手放さないのは日本の後進性を物語る。
(令和3年3月17日付静岡新聞『論壇』より転載)