16日に行われた菅義偉首相とバイデン大統領による日米首脳会談で話し合われた中で、差し迫って重要な課題は「台湾問題」にとどめを刺す。米国は79年中国本土を承認し、台湾と断交した際「台湾関係法」を立法し、継続的に台湾への武器売却などを続けてきた。一方、日本は親中派が政権の中枢を担ってきたため、政治家は台湾とは交わらない傾向が強かった。しかし日本国民の胸には、かつて日本人として戦ってくれた台湾人、東日本大震災ではなんと200億円もの見舞金を送ってくれた台湾人に全国民がひそかに頭を下げている。同朋意識が生き続けている。
一方の中国は南シナ海、尖閣諸島に絶え間なく脅威を与えている。軍備増強もここ20年二桁の伸びで拡大し続けている。昨年8月、米誌ナショナル・インタレストに軍歴21年のダニエル・デイビス氏が「米国は中国の台湾進攻を撃退できるか」との考察記事を書いている。この論文は「机上戦演習の悲観的結果と、米国の国防予算が招く破綻の懸念」について述べている。「台湾進攻があれば米国は負けるかもしれない」と別の米国の高官も述べている。トシ・ヨシハラ氏の書いた『海上自衛隊と中国海軍』という著書で、もし両者が対決すれば「日本側は4日以内に尖閣を取られる」とある。
台湾の戦力がいかほどかについて、日本も米国も実態を計りかねている。米国は台湾関係法を有しながら、台湾軍と軍事演習を行っていない。日本も当然、経験がない。軍備は常時訓練し、動いていなければ効率的に力を発揮できない。
台湾有事が近いというにもかかわらず、米国も日本も戦う用意はしていない。台湾は日本防衛の最前線である。台湾有事の時、尖閣で何も起こらないことはあり得ない。中国は、一国二制度で自由体制のはずだった香港を、たった1週間で潰した。チベットを征服し、ウィグル自治区では人道に反する民族抹消ともいえる弾圧を加えている。こう次々に相手をのして行くのは、勝者の心理によるものだろう。香港の自由を潰した結果、蔡英文総統が大勝利した。こういう時局に逆らう手を打つのは超勝気の状態だからだ。
中国大陸の仕業に台湾の人々は怒り心頭である。台湾では自分は中国人ではなくて「台湾人」だと答える人は本土出身者も含めて全体の7割。中国が攻めてきたら「戦う」と言う人が8割を占めるという。
台湾は李登輝元総統の導きによって理想的な選挙態勢を作り上げ、政権交代という民主主義の原理を見事に実現している。この見本が共産党に食いつぶされるようでは自由も民主主義原理も基本的人権も無力ということだ。米中対立はまさに自由と独裁(共産主義)の対決である。その雰囲気が世界に充満してきて日米豪印の「クアッド」が生まれ、EUもこれに気付き始めた。中国包囲網が出来上がった時に中国はどう生き延びるのか。
(令和3年4月21日付静岡新聞『論壇』より転載)