菅政権は変異株に対応出来ていない

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 東京、関西3府県の緊急事態宣言が延長され、新たに愛知、福岡も加えることになった。当然のことだ。そもそも17日間という設定自体が短すぎた。GW中の感染がどうなるかは、解除期限の5月11日を過ぎなければ分からない。なぜこんな短期間にしたのか。17、18日とIOCのバッハ会長が来日するからだと指摘されている。本末転倒も甚だしい。国民の命を何と思っているのか。
 菅義偉首相は、「GW中人流は減った」と言ったが、人流を減らすことが目的ではない。感染者を減らすことが目的なのだ。しかも、「人流が減った」というのも事実誤認だ。確かに東京の繁華街は減ったが、東京周辺の観光地は東京などからの観光客でごった返した。高速道路は軒並み大渋滞だった。私が住む小江戸・川越もそうだった。
 要するに、首相や自治体首長の呼びかけが心に届いていないのだ。なぜか。答えは簡単だ。なぜ緊急事態宣言を発するのか、どういう状態になれば解除するのか、変異株がどれほど恐ろしいのか、政府は何も説明していない。菅首相から、ドイツのメルケル首相のような必死の訴えを聞いたことは一度もない。記者会見で見るのは、こちらが不安になるような自信なげな表情だけだ。
 情報も発信されていない。私のような高齢者が得る情報は、テレビのワイドショーと新聞である。政府からも、自治体からも何も聞こえてこない。だが若者は、ワイドショーも見ないし、新聞も読まない。
 大阪では人流が数週間前から減っている。それでも感染者は減っていない。ここにイギリスで発生したN501Yという変異株の恐ろしさがある。さらに今度はインドからの変異株である。東京ですでにインドの変異株も見つかった。ここには、菅政権の水際対策の決定的な怠慢がある。自民党の佐藤正久外交部会長も「日本の水際対策は、底が割れた鍋のような状態だ。国内で感染者が出てから『壁』を高くして備えても、もう遅い」と危機感を露わにしている。
 インドで変異株が見つかったのは3月末だった。だが加藤勝信官房長官は、当初は「注視する」と述べただけだった。要するに「見ているだけで何もしない」と言うことだ。4月22日になって語ったことは、「情報収集と評価分析を進め、水際対策や監視体制を強化して感染拡大防止を徹底したい」と言うことだった。だが結局何もしなかった。入国規制が始まったのは5月1日からだ。N501Yもインドの変異株も水際対策で完全に失敗した。
 ワクチン接種の遅れも政府の責任である。イスラエルなどはネタニヤフ首相が直接ファイザー社などと交渉していち早く確保した。だが日本は首相どころか、厚労相ですら交渉していない。厚労省の役人任せだった。それがワクチン入手の遅れにつながり、OECD(経済協力開発機構)加盟国で断トツの最下位になっているのだ。
 5日付米紙『ワシントンポスト』が、「パンデミックの中で国際的メガイベントを開催するのは非合理的」と東京五輪の中止を主張した。このままではこれが現実になりそうだ。