9月末日までに行われる解散総選挙について、立憲、国民、共産の野党3党は地域別にどのような取り合わせがいいか、思案している。しかしこれまでの選挙のような発想は通用しないだろう。「憲法改正はしない」と昔語りをしている内に、大衆の意識はすでにその一歩先を歩いているようだ。
5月に行われたマスコミの憲法改正の世論調査では次のようになっている。(産経)賛成52.6%、反対34.9%、(読売)賛成56%、反対40%、(毎日)賛成48%、反対31%、朝日とNHKの内容は「改憲の必要があるか」で、(朝日)必要45%、必要なし44%、(NHK)必要33%、不要20%、どちらともいえない42%。
読売、NHK、毎日、朝日はともに前回に比べて賛成が増えている。この世論の推移を見ながら鍵を握っている共産、立憲は「憲法改正必要なし」と終戦直後と同じような感覚である。日本国民は300万の同胞を犠牲にし、原爆を2発落とされ「戦争はコリゴリ」という気持ちで戦後復興に取り掛かった。当時、中国・ソ連は潜在的脅威だったが、国民の外交感覚は「どこの国とも仲良くする」というものだった。
先日、河野太郎氏の防衛大臣当時のテレビ映像が流れた。安倍晋三氏が「敵地攻撃の有効な策を研究して貰いたい」と言った当時の記者会見である。記者が「周辺国は了解しているのですか」と質問。河野氏が「相手が武装を強化している。それに対抗するのは当たり前じゃないですか」と一蹴。この新聞記者の質問はおかしいのだが、戦後のマスコミは相手の意向通りに書くのを取材の指針としていた。また野党は善、与党は悪と決めつけるのも編集方針の重要な要素だった。
共産党にとって1925年の死刑を含む治安維持法は悪夢だったに違いない。1950年の朝鮮戦争を受けレッドパージも悔しかったろう。したがって軍隊を敵視するのは分かるが、今や国民全体が自衛隊がいなければ災害救助もままならないことを知っている。軍隊をなくすと、外交は周囲の国の意向を聞いて歩く仕事一点張りになる。下手な主張をして衝突をしては困るからだ。1980年代当時、産経新聞が拉致問題を報道したにもかかわらず、2000年、社会党系国会議員、共産党の不破哲三議長は「不確かな議題は引っ込めろ」と言って押しのけた。社会党は韓国が捕まえた1989年拉致犯の「釈放嘆願書」に署名した。ところが2002年に小泉・金会談で現実に拉致被害者が帰ってきたのである。
日本が小さくなって生きているのに中国の軍事拡大、増長ぶりは止まらない。太平洋の覇権を握ることを考えているのだろう。
日本政府は米国と共に中国の侵略は許さない方向を向いている。世論調査も国防の方を向いているように見える。世界の共産党は皆、消えた。今や「共産党」という名前自体、古色蒼然なのである。活性化は無理だろう。
(令和3年5月12日付静岡新聞『論壇』より転載)