「2+2」の集積:インド太平洋における印日関係

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マノハール・パリカル国防研究所東アジアセンターセンターコーディネーター兼リサーチフェロー ジャガンナート・パンダ

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 安全保障上の共通の課題が志を同じくするアクター達を団結させている。強まりを見せる中国の自己主張は、正にインド太平洋地域の政治、経済、外交上のパートナーシップ関係に対するインパクトをもたらしているが、インドと日本というアジアの経済大国間で進む協力関係のように、大きな影響力や牽引力を有する連携はほとんど見られていない。歴史的な重荷もなく、野心を共有し経済の中国依存を含む脅威認識を同じくしているインドと日本は、相互に理解と尊敬を維持することができた。このような状況の中、「特別戦略的グローバル・バートナーシップ1 」を承認するものとして、印日外務・防衛閣僚会合(「2+2」)メカニズムは、2019年の開始以来、両国の戦略的協力関係をしっかりと形成してきた。
 
 菅義偉首相の訪印や印日「2+2」が新型コロナウイルスの影響により中止となったが、政治がこのような交流の開催・継続を意図するということは、インド太平洋地域における印日協力関係の将来を見定める上で非常に大きな可能性を有している。この地域のパワーバランスにとって、印日「2+2」はどのような意味をもたらすのか、そしてそれはどのように両国のパートナーシップ関係に組み込まれていくのであろうか。
 
 クアッドや印日豪、豪日仏、米日豪、日米印という三カ国間の形式であれ、多国間の参画というものが地域の協力関係や安全保障環境を短期間のうちに形成している。「2+2」もまた、二国間の焦点を確認したり地域のパワーバランスに関するメッセージを発信したりする戦略的手段となっており、実際、日本は米国やロシア、フランスなどの大国と長年にわたって「2+2」形式を活用している。一方、開始されたばかりではあるが、インドの参加する「2+2」は非常に勢い付いており、安全保障協議において認められているインド政府の重要性をますます強調している。このような状況の下、印日間の、そしてナレンドラ・モディ首相と安倍晋三前首相との個人的信頼関係における決定的なパートナーシップ関係は、両国の「2+2」を活発化させる推進力となっており、これらによって際立っている両国間の「2+2」は重要な役割を果たしてきている。
 
 現在の状況を見る限り、菅首相とモディ首相との間にはまだ個人的な信頼関係は構築されていないが、そのための多くの手段が公式訪問によってもたらされるだろう。とりわけ、日本の現政権発足以来、菅首相は「(前政権からの)続きの」リーダーとして知られており、それによって菅首相はインド、豪州、日本、米国で構成されるクアッドの流れを維持しながらインド太平洋地域に集中することができている2。2020年に第2回クアッドを主催し、この枠組みに積極的に参加している一方で、菅首相が率いる日本はクアッドのメンバー各国との二国間関係の強化に力を入れている。この点において、直面する「中国の脅威」についての協議だけでなく、ワクチン外交やサプライチェーンの再構築を巡る話し合いが行われている中、印日「2+2」はより重要になってくるだろう。さらに、インドと日本は長年にわたってアフリカとの大陸間関係の構築に尽力しており、両国で行う「2+2」は、インド洋及びアフリカ沿岸諸地域に注力するのに適切な時期にやって来たフランスとの相乗効果を高めるだけでなく、同地域における印日関係に改めて注目する理想的な機会となっている。
 
 さらに、最近だけで中国戦闘機による台湾空域への侵入回数が過去最多となったように、中国は台湾に対する好戦的な行動をますます強めるなど、東シナ海と南シナ海における動きを活発化させており、菅首相にとってより良好な安全保障関係を構築することが中心的な政策となっている3。中国がインド太平洋地域で好戦的な冒険主義を続ける中、日本政府は、重要な価値を共有し「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を後押しするパートナーとしてのインドに期待を寄せ始めている4。両国は、FOIPと領土保全を基礎としルールに基づいた地域秩序ビジョンの共有を保証すると繰り返し言明している。2020年に4回目の実施となった印日間の海上共同訓練(JIMEX)5や物品役務相互提供協定(ACSA)の署名は、両国間におけるより強固なインド太平洋に向けたものである6。さらに、このような動きはクアッドのメンバー国間で実施する日米印豪共同訓練(マラバール)を下支えし、インドと日本がそれぞれ米国や豪州、その他の国々と共有しているロジスティクス協定を加速させるものである。
 
 2021年に印日「2+2」を開催することによって、二国間関係の先行きを決める幅広い議論がなされることになるだろう。インドは日本の洗練された兵器やイノベーション技術を必要としており、両国にとってより調整された取り組みや参画によって両国への利益を示すことが可能となる。インドは日本のUS-2 水陸両用機を求めており、自国内で組み立ての30%を行う準備もしているが、そのためには印日間で具体的な理解や同意に至ることが必要である。ここで大きな制約となっているのが、日本国憲法第9条により日本では防衛交流が制限されていることである7 。安倍前首相のリーダーシップの下で日本は平和憲法から抜け出し、グローバルな防衛交流の一翼を担う努力を続けてきたが、歴代最長の在職日数にもかかわらず、安倍前首相が憲法改正を実現することは出来なかった。両国間の開発援助には2つの次元がある。国内的には、「アクト・イースト」政策(Act East Policy:AEP)と「質の高いインフラパートナーシップ」(Expanded Partnership for Quality Infrastructure:EPQI)間の相乗効果の下で、北東インドのような地域におけるインフラの発展が大きく進展している。国際的には、スリランカやバングラデシュ、アフリカ諸国との開発協力によって、プロジェクトベースではあるが、第三国協力が1つの主要分野となっている。
 
 より重要なこととしては、日本政府が現行の「メイク・イン・インディア(インドでモノづくりを)」を1つの機会と捉え、このスキームへの投資に対する継続的で前向きな意思を示していることである8。その結果として、日本の防衛産業が「メイク・イン・インディア」を活用し、インドで製造ユニットを設立したとしても驚くべきことではない。この意味において、印日「2+2」は多極的な世界構造における印日関係の位置付けを議論する場をもたらすものである。さらに重要なことは、このような「2+2」は中国の単独的かつ単極的な圧力へ挑戦し、インドと日本が構想した連携を前進させるために両国間の戦略的信頼関係のある環境を提供する。信頼を構築しより親密な戦略対話を行うことは、あらゆる構想の鍵となるものであり、印日「2+2」がインドのAEPと「日本の自由で開かれたインド太平洋」間における、実務ベースの協力を実現するための確固としたステップであることに疑いの余地はない。中国への対応は印日関係の最優先事項であるべきである。しかし、インドと日本の両国が経済を中心としたより具体的な安全保障協力関係を持ち続けていれば、このような対応はより実践的で可能性のあるものとなるだろう。
 
 
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1  “Japan-India Relations.” Ministry of Foreign Affairs of Japan. January 4, 2021. https://www.mofa.go.jp/region/asia-paci/india/data.html.(April 21, 2021 retrieved).
2 Nakamaru, Ryotaro. “Suga becomes Japan PM, forms continuity Cabinet as Abe era ends.” Kyodo News. September 17, 2020. https://english.kyodonews.net/news/2020/09/e728ad6b92a7-suga-to-take-office-as-japan-pm-amid-virus-economic-woes.html. (April 21, 2021 retrieved).
3  “Taiwan: 'Record number' of China jets enter air zone.” BBC. April 13, 2021. https://www.bbc.com/news/world-asia-56728072. (April 23, 2021 retrieved).
4 ANI. “India, Japan to hold 2+2 talks amid aggressive China in Indo-Pacific.” Business Standard. April 10, 2021. https://www.business-standard.com/article/international/india-japan-to-hold-2-2-talks-amid-aggressive-china-in-indo-pacific-121041000192_1.html.(April 23, 2021 retrieved).
5 “Bilateral Maritime Exercise Between Japan and India (JIMEX 20) to Commence off West Coast of India.” Indian Navy. https://www.indiannavy.nic.in/content/bilateral-maritime-exercise-between-japan-and-india-jimex-20-commence-west-coast-india.(April 23, 2021 retrieved).
6  Laskar, Rezaul H. “India, Japan sign key pact for reciprocal provision of supplies, services between defence forces.” Hindustan Times. September 10, 2020. https://www.hindustantimes.com/india-news/japan-s-pm-shinzo-abe-speaks-on-phone-with-narendra-modi-lists-elevation-of-global-partnership-between-the-two-countries-as-a-key-achievement/story-dgAYdfesU7Vtz2Miua6z7M.html.(April 23, 2021 retrieved).
7 “Japan: Article 9 of the Constitution.” Library of Congress. https://www.loc.gov/law/help/japan-constitution/article9.php. (April 23, 2021 retrieved).
8 “Japan committed to supporting PM Modi’s Make in India initiative: PM Shinzo Abe.” Hindustan Times. October 28, 2018. https://www.hindustantimes.com/india-news/japan-committed-to-supporting-pm-modi-s-make-in-india-initiative-pm-shinzo-abe/story-Xrwugne3pETcHAsEvrpKUM.html.(April 23, 2021 retrieved).