米中対立が深化して、世界の地政学的様相が変わりつつある。一方で企業の有様もグローバリズム打破で変化しつつある。変化は米国か中国か、どちらかが勝つまで続くかもしれない。
習近平主席は香港の世論など一切無視してあっという間にケリをつけた。終身主席と言う自信も垣間見せた瞬間だった。同じ目で台湾を見ているのだろうが「1週間で奪える」と漏らす側近もいる一方、米側では「6年以内に中国軍は占領しに来る」と明言した米高官もいる。
4月、東京で行われた日米会談は、台湾防衛について日米間の実質的な協力を約束したものであろう。日本はかねて「自由で開かれたインド太平洋」を目標に日米豪印のクアッドを標榜しているが豪の軍備は規模が小さい。またインドは伝統的に中立を目指すから、軍事に大きな期待は持てない。ヨーロッパでは冷戦体制が崩れた後、ロシアが親中国感情を強めている。一方で英国はEUを離脱した結果、独自の軍事戦略を立てることが可能となった。英仏両国とも太平洋に領土をもっており、インド太平洋の自由航行の保証は他人事ではない。ドイツもアジアに膨大な量の輸出をしている。英仏独とも軍艦をインド太平洋に派遣することを明言している。
バイデン大統領は戦争を一正面に絞るためにアフガニスタンからの撤兵を行い、中近東から足を洗おうとしている。この姿勢によって中露両国からの中近東介入もほどほどになるのではないか。
難題はアジアである。中国が主張する第一列島線上には台湾、フィリピンがあり、第二列島線上にはグアムがある。九段線には台湾、インドネシア、マレーシア、ベトナムがある。防衛省の中にはこれらを一体として括り「新ライン」を作ったらどうかという意見もある。
上述のアジア諸国には親中の国もある。総じて日本に親近感を持つが、中国とも商売をしているというジレンマがある。
かつて日本はPC事業大国だった。ところが2011年にNEC、17年には富士通がレノボに買収された。レノボの製品は価格が安い。日本の会社の利益が縮小した頃にレノボから買いが入り、本社を売ることになる。どの業種も中国の安売りのせいで業績悪化して、最後は投げ出すという経過を取る。ファーウェイのように政府補助金を貰って30%も価格を下げられれば競争にならない。自由市場でこの反則はないだろう。資本主義の原則が成り立たない。
日本学術会議は「軍事研究に協力しない」ことを謳った内閣府の機関である。毎日新聞は学術会議のメンバーであった梶野敏貴氏が、中国の国防7校の一つであり、ミサイル開発の一大拠点である北京航空航天大学の特別教授として2016年に着任したと報じている。同氏は同じ年に「他国の技術を奪う仕組み」と米議会で批判されている「千人計画」の対象にも選ばれている。元日本学術会議連携会員の土井正男氏も東大退職後、北京航空航天大学教授となった。学術会議の重鎮たちは敵が誰か分かっているのか。
(令和3年5月26日付静岡新聞『論壇』より転載)