米政府系放送局「自由アジア放送(RFA)」は5月17日、平壌の高層ビル・マンション街で金正恩体制を批判するビラが大量に散布されたと報道した。国家保衛省など監察機関は非常事態に入り、厳しく取り締まっているようだ。大量の体制批判ビラの散布は金日成大学理工学部の学生が中心だが、全国の青年学生が抱える不平不満の現れでもある。ビラの主な内容は「3代長期独裁政権にわれわれ人民は騙され、アジアの最貧国に落ちている。われわれ人民が総決起して金正恩独裁者を倒すべきだ」との呼び掛けだ。親子孫3代にわたる70年の長期独裁政権は現代において類例のない異常な状況であり、現代版の王朝である。とりわけ、金日成親子孫の別荘は全国に24ヵ所も散在しており、特閣と呼ばれる別荘は超豪華施設であると知られている。
一般人民は1990年代半ばの「苦難の行軍」時に150万人以上が餓死したのに、指導者は贅沢三昧の生活をしている。鋭い感受性を持つ青年学生たちには、到底受け入れられない常識外れなのである。
現在、北朝鮮は経済の落ち込みがひどく、労働党幹部さえ配給物資が届かない状況にある。このような経済危機を乗り越えるため、金正恩は第2の「苦難の行軍」と自立更生を呼びかける一方で、不平不満を抑えるために恐怖政治を再開している。金正恩は叔父を残忍に処刑し、兄を海外で毒殺するだけでなく、側近たちを相次いで処刑する恐怖政治を行ってきた。とりわけ、米国人大学生ワームビア氏が2017年、北朝鮮で拷問を受け昏睡状態で帰国し、直後に死亡した事件は人権を重視するバイデン政権にとって許せない蛮行だ。
米国は自国民が殺されたら何年経っても必ず報復する国柄である。最近、在韓米軍司令官に指名されたポール•ラカメラ太平洋陸軍司令官(陸軍大将)は特殊戦部隊で実戦経歴が多い。大尉の時はパナマの独裁者ノリエガ捕縛作戦、少佐の時はハイチのクーデター鎮圧作戦、イラク戦ではフセイン捕縛作戦、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討戦の指揮官など、特殊戦で実戦経験を積み重ねた。
また最近、指名された在韓米海軍司令官も海軍特殊部隊(Navy SEALs)出身である。これらの人事は、北朝鮮の長期独裁政権の内部崩壊とレジームチェンジを視野に入れたと考える。金正恩体制が国内外から脅かされ始めているのが分かる。
*本稿は5月21日付世界日報に掲載したコラムを部分的に修正したものです。