菅さん、藤川球児さんの野球解説に学びなさい

.

政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 阪神タイガースの投手だった藤川球児さんの野球解説が評判になっていることをご存知だろうか。故野村克也さんのようにキャッチャーだった人は野球をよく知っているが、ピッチャーは“お山の大将”的な人が多く、きめ細かな解説は出来ないというのが、野球の世界ではほぼ常識だった。
 6月6日の日曜日に巨人と日本ハムの試合があり、NHKのBSで中継された。解説者は、藤川氏と元巨人のエースで大リーグのレッドソックスでは抑えのエースとして活躍し、ワールドシリーズでも優勝投手になった上原浩治さんだった。年齢も、実績も上原さんが藤川さんを上回っていたが、解説の中身は断然藤川さんが上だった。実は、以前にも藤川さんの野球解説を聞きながら、あまりにも説得力があることに驚いていた。
 この日もそうだった。巨人はエースの菅野智之が故障から復帰した試合だった。NHKの夜のスポーツニュースでドキュメント風に2人の解説の模様を放映していたが、藤川さんは放送席に来るなり、「今日、先発は菅野でしょう。心配ですね。王(台湾出身の野手)にホームランを打たれそうな気がします」と言うのだ。ズバリ的中だった。菅野は2回表に王にホームランを打たれ、負け投手になった。
 藤川さんは、解説のために詳細なデータとメモを作って来ていたのだ。上原さんは何もなし。経験と勘だけなのだ。何回だったか、巨人の亀井選手が三振をした場面でも、「ここで落ちるボールを投げれば三振でしょうね」と言うと、これもその通り。インコースの落ちるボールに手を出して、亀井は三振した。
 東京五輪が近づいてきた。依然として反対の声は多い。だが恐らく開催するのだろう。政府分科会の尾身茂会長は、「今の状況で(五輪を)やるというのは、普通はないわけですよね、やるということであれば、オーガナイザー(主催者)の責任として、開催の規模をできるだけ小さくして、管理の態勢をできるだけ強化するというのは、私はオリンピックを主催する人の義務だと思う」「そもそも、今回のオリンピック、こういう状況のなかで、一体何のためにやるのか。目的ですよね。そういうことが、ちょっと明らかになってないので。このことを私はしっかりと明言することが、実は人々の協力を得られるかどうかという、非常に重要な観点だと思う」と語っている。
 この提起は、「平和の祭典」とか、「安心安全」などという抽象的な言葉で済まされることではない。「平和の祭典」というなら、人権弾圧の激しい中国やベラルーシ、ロシア、ミャンマーなどの参加を拒否すべきだ。あるシェフが「私には『塩胡椒』という熟語はありません。『塩』、『胡椒』です」と言っていた。「安心安全」などという熟語もない。安心するかどうかは、人それぞれの主観だ。「責任」を問われて、「専門家に」と言う菅首相に尾身氏の注文に答える能力はない。明確なことは人流が増えれば、感染は広がるということだ。