台湾有事は日本有事である。尖閣諸島で悶着を起してから、中国軍が台湾に攻め込む手順を軍事専門家は考えていた。日本で成立した新安保法の考え方も、最初に「重要影響事態」で米軍を後方支援し、戦火が厳しくなり「存立危機事態」と判定すれば防衛出動を命ずるという段取りである。しかし中国は台湾獲りにこのような手間はかけないだろう。香港は2047年まで50年間高度の自治を約束されながら、わずか23年で約束を放棄された。台湾は独自の軍隊を持っているから、そう簡単にはいかないが、相手が軍隊を持つから話し合いで事を始めるなどという気持ちは、中国には皆無だ。
3月9日、米インド太平洋軍司令官フィリップ・デービッドソン大将(当時)は米上院で「今後6年以内に中国が台湾を侵攻する可能性がある」と証言した。同月23日には次期インド太平洋司令官に指名されたジョン・アキリーノ太平洋艦隊司令官(当時)が、台湾侵攻の脅威は深刻であり、「大半の人が考えているよりもはるかに切迫している」と証言した。ではどのような戦争になるのだろうか。
防衛大学教授の太田文雄氏(在米駐在武官経験者)が明らかにしているが、ランド・コーポレーションが16年に発表した350ページに亘る“米中戦争”分析がある。
16年の時点で台湾が戦場になった場合には、米中はパリティ(拮抗)。南シナ海、スプラトリーの場合には、やや米国が有利。注目すべきは台湾有事の時だという。当然、航空優勢を獲る戦いが序盤に始まる。その時、米軍の本拠地となる飛行場は2ヵ所しかない。沖縄の嘉手納と普天間だ。これに対して中国は39の空軍基地がある。中国軍から見るとこの沖縄の航空基地をまず機能不全にしたいのが当然。このために中国は甘粛省に嘉手納と寸分違わぬ模型を作り、そこにミサイルを撃ち込む訓練をやっている。さらに空母ジョージ・ワシントンの母港である横須賀を想定した基地の模型も作り、攻撃訓練をしている。
以上の情勢を見ると台湾有事は即、日本有事になる可能性がある。こういう軍事的恐怖が国民の心にじわりと迫りつつある。産経・FNNが5月15・16日に実施した合同世論調査によると、具体的な憲法改正議論を進めるべきかどうかについて「進めるべき」が72.0%、憲法に緊急事態条項を創設するでは「賛成」が68.2%となっている。安倍前首相が新安保法を作った時期と比べて事態は一段と深刻化している。安倍氏は憲法9条はそのままで、同条に自衛隊の存在を加えることで妥協しているが、軍隊は死を賭して国を守る集団である。憲法改正は彼らが名誉に思う条文にすることが不可欠だ。野党には反日思想の持ち主が多いが、日本を救うのは愛国者のみだ。数ヵ月後に行われる衆院選挙で、少なくとも反日思想家だけには票を入れないで貰いたい。
(令和3年6月16日付静岡新聞『論壇』より転載)