国際情勢は極めて分かり易くなってきた。かつての米ソ対立で東西が対峙したように、現在は米中の対立で、危険度が増してきた。
冷戦時代、日本は米国の軍事力の陰で危険を逃れてきたが、今は米国と共同で中国に対峙している。日本の責任は自国を守ることだけでなく、民主主義と自由を守るという重いものとなった。中国の膨張を防ぐために安倍前首相が「インド太平洋構想」を掲げ、日米豪印(クアッド)が連携する一方、欧州の英仏独が中国封じに呼応してきた。この欧州と日米の連携度は日増しに強くなっている。
これは習近平氏の中国が、圧倒的な強気で国力の増進を図っているからだ。ウイグルでは民族も体制も無視するというやり口を強行している。これが通用すれば、世界から自由が無くなるだろう。独裁国家では自由は奪われ易いとはいえ、奪い方にも限度があるはずだ。100万人単位で収容所に放り込んで、漢民族化を図る中国に世界中が非難の声を上げている。それでも習氏は、次は「台湾を獲る」と明言している。国家主席の任期制度をなくして、終身独裁の地位をほぼ手中にした習氏は、一瞬で香港を制し、ウイグルに手を付けた。台湾を獲り損なえば権威は失墜するだろう。そこまで思い詰めているからからこそ、軍事力の増強に際限がないのだ。
今、米中戦争が起こって、中国と日本の海軍が戦えば「4日で敗ける」と言われている。有利なのは米国の空軍だが、基地が日本に2つあるだけだ。一方で中国空軍には59ヵ所の飛行場がある。この状況から、中国が「日本の基地を先制攻撃するのではないか」との懸念がある。安倍前首相は「2発目を喰わないために即、反撃ができる兵器を造る」方針を示した。当然、正当防衛の行為だが、憲法の文脈解釈がまたぞろ噴き出すだろう。憲法9条は「非武装中立を狙ったもの」との解釈をする憲法学者がまだ3割もいるという。国民の皆がすっきり分かるような条文にしなければ、国民が防衛の必要性や我が国が危殆に瀕している実情を分からないに違いない。日本と同盟を結んでいなければ、米国は中国と対決しても勝てない状況を迎えるだろう。
中国の狂気が収まらないのは共産主義、全体主義の衣を纏い、共産党によって統治されているからだ。
この状況は今後、半世紀は続くだろう。しかし中国の老齢化は避けられず、所得格差が縮まる気配はない。国内に不満が充満すれば、一戦を交えて国民の気を逸らし、団結心を取り戻そうとするかもしれない。
菅政権は安倍外交路線を着実に踏襲している。これが現代外交の正しい姿だと、自信を持っていい。
米ソ冷戦時代と異なるのは、貿易のあり様である。日本の財界人は「中国は優良市場」と認識しているから「中国離れ」は不満かもしれない。しかしここは、国益重視を最優先して貰いたい。
(令和3年7月7日付静岡新聞『論壇』より転載)