「習近平の文化大革命」
―格差進む中国、バブル崩壊寸前―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 中国では習近平氏による新たな「文化大革命」が勃発している気配である。66年に始まった毛沢東による文化大革命(文革)は10年の歳月を費やし、200万人とも数千万人とも言われる餓死者を出した。文革は、毛沢東が権力闘争に敗れて抹殺される寸前に、若者を使って反撃に出た事件だ。
 習近平主席の目下の強みは、中国を一流国家寸前まで持ってきたことだろう。軍備は米国に並び、GDPは日本を追い抜いて2位になった。この国家的大目標を達するために、習主席の任期制限は撤廃された(通常は2期10年まで)。香港は、50年間は一国二制度の約束だったのに23年で反故にされ、本土の実質的な管理下に置かれた。習氏は今夏の党創立100年式典で「台湾も獲る」と公約し、尖閣諸島近辺に軍事接近を繰り返している。式典では、今では珍しくなった毛沢東風人民服を着て現れた。
 この習氏の立場を解釈する2つの見方がある。順風満帆で権力を手中にしているという見方と、政権内に緊張があり、特に強がって見せる必要があったという見方だ。
 前任者の鄧小平氏は「先富論」を唱えた。「先に稼いだ人は、貧しい人を助けなさい」という意味である。資本主義化してもいいことだと認識した商売上手な人達は、世界規模の大企業を築き上げた。一方で貧乏人は減らない。マンション相場はここ10年で2倍近くになった。都会で小市民的生計を送る希望がなくなったのである。
 生活格差を目立たせないつもりで打ち出したのが「学習塾の廃止」であり、学校の授業では歴史教育を重視するという。習氏が今、その言葉を引き継いでいるが、鄧小平氏は「先富論」の次に「共同富論」を掲げていた。ところが互いに助け合うどころか、猛烈な身内の競争を引き起こした。国営企業より大規模化する会社が乱立した。その一方で、李克強首相が去年5月に行った記者会見での発言によると「約6億人が、月収1千元(約16,000円)で暮らしている」という。
 習氏は貧乏人の慰めに、金融会社アントグループの上場を延期し、電子商取引大手アリババ集団には約3,000億円相当の罰金を科し、ゲーム会社テンセントの買収計画は却下、学習塾大手など十数社にも罰金を科した。
 儲け過ぎの企業を叩く一方で、8月に著名で裕福な女優3人を中国の映画業界から追放した。儲けすぎは個人でもダメということか。
 他方、金融の世界では、不動産バブルと債券バブルが崩壊。投機的資金が流れ込んできていた株式市場もバブル崩壊寸前と言っていいのではないか。日本の信用取引は手持ち資金の3倍しか貸さないが、中国では8倍から10倍、時にはそれ以上と言うから、破産すれば、その程度は極端である。
 中国トップと言われた不動産大手、中国恒大集団が巨額の負債を抱え、倒産の危機にあるという。習氏の人民服は裏目に出るのか。
(令和3年9月22日付静岡新聞『論壇』より転載)