中国がTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に加入申請したのを追うように、台湾も加入を申請した。ざっくばらんに言えば、TPPというのは加盟国間の貿易が増えるようにする条約だが、国営企業が大半を占める共産主義体制には全く合わないものだ。2001年に中国をWTO(世界貿易機関)に迎え入れた頃の世界の「中国理解」を思い起こして欲しい。WTOは自由貿易を促進するための機関である。そこに中国を招き入れたのは、中国も「豊かになれば、自由主義体制に近寄ってくる」という発想があったからこそだ。貿易が進み、国力が増せば、中国も国営企業を民営化するだろうと楽観していた。この楽観主義が何をもたらしたか。自由主義国の技術や先端知識を徹底的に盗んで自国を軍事強国化し、今度はその軍事力で、米国を始めとする自由主義国を脅かし始めたのである。この暴挙にいち早く反応したのがトランプ前大統領だ。世界一の規模にまで発展した通信会社、ファーウェイ(華為技術)社製品の輸入禁止を打ち出した。その結果、ファーウェイの21年1~3月期の売上高は、前年比で2割近い減少だった。そして米国は、中国を取り囲む海洋の安定のために、日米豪印のクアッド、さらには米英豪によるAUKUS軍事同盟を結成した。
今、中国が主張しているTPP加入申請というのは、かつてWTOに加盟して得たぼろ儲けを「もう一度味合わせてくれ」と言っているに等しい。現在、TPPの議長国は日本だが、来年はシンガポールが議長になる。同国は「中国加入賛成」の意思を示しているが、幸いTPP加入には、全加盟国の賛成が必要だ。日本が反対し続ければ、中国は加入できない。
日本はその権限を徹底的に利用すべきだ。中国を先に加入させれば、台湾の加入を中国は絶対に認めないだろう。中国は台湾のWHO(世界保健機関)傍聴すら認めなかった。コロナが世界的に大流行して、その発生源と言われている中国が台湾を除外し得たのは、中国が「国連安全保障理事国である」という理由からだ。しかしTPPには、国連安保理事国の権限は全く及ばない。自由貿易体制であり、独立の国・地域には全て参加資格がある。中国自身、中国と台湾は「一国二制度」と主張している。TPPは自由貿易体制の国々が互いに利益を得る仕組みであり、本来、共産主義体制の国には加盟資格はない。それを無理に加入させたのがWTOの失敗だった。
TPP加盟国は日豪加に加えてアジア諸国、計11ヵ国で、英国は加入の交渉中だ。日本は米国の加入を希望しているが、米国はWTOに中国を加入させた失敗に懲りてか、TPPの加盟要件を一段と厳しくすることを望んでいるようだ。
18年12月に発効したTPPは、多くの物品で関税を撤廃し、電子商取引や知的財産などの幅広い分野でルールを決めている。多くの自由貿易協定(FTA)が盛り込めなかった「TPPスタンダード」と呼ばれる高水準の内容を含む。中国が守れそうもないものばかりなのだ。
(令和3年10月20日付静岡新聞『論壇』より転載)