「国際社会の対中路線に逆行か」
―日本の孤立を招きかねない林芳正氏の外相就任―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 林芳正氏の外相就任は、適格性に疑問を拭えない。国際的に日本が誤解されることになるのではないか。林氏の父親の林義郎氏は名だたる日中友好議連会長で、子息の芳正氏もその会長を引き継いでいる。林父子が親中派ということは、外交畑を歩いた人物なら知らぬ者はいないだろう。前外相の茂木敏充氏(竹下派)を幹事長に引き抜いた後10日間も時間を費やしたのは、岸田文雄首相がその間、悩みに悩んだことを物語っている。
 安倍晋三元首相は勿論、麻生太郎副総理も内心大反対だったに違いない。麻生氏の願望は麻生派と岸田氏の宏池会を大同団結させて、大宏池会を再生することだった。その合併路線の障害が、岸田氏の対中感覚の甘さだった。その甘さを補強しているのが林芳正氏の対中、対韓路線だ。安倍元首相の外交を契機にクアッド(日米豪印)やAUKUS(米英豪の軍事同盟)が形成された。この外交同盟を中心にして、ASEANや欧州諸国も中国を警戒する態度に変わりつつある。
 これら味方の諸国の反中感情からみると、林芳正外相起用には意外感があるのではないか。林氏が事態を了解して、静かに路線転向を図る柔軟性を発揮しなければ、反中環境の中で日本だけ独りぼっちという愚かな事態になりかねない。
 国際情勢が正確に見える党や人がいるなら過ちは自然に矯正されるだろうが、そう楽観できないところが深刻だ。
 林氏は経済重視、軽武装の宏池会路線の伝統を忠実に守っており「文藝春秋」11月号のインタビューで反中派に対してこう語っている。「単純な対中強硬姿勢だけでは、うまくいかないだろう」「日本と中国は、切っても切れないほど絡み合っている」「一般的な貿易と経済安保の線引きが必要になってくる」
 自由主義世界が対中危機を迎えるに至った契機は、2001年に中国をWTO(世界貿易機関)に受け入れたことである。中国の政治経済体制はそのままで、加盟のハードルは思い切り下げられた。中国は安価な製品を輸出し、西側の最重要な技術は、軍事技術に至るまで自由に盗み取られた。この関係に激怒したトランプ大統領が「甘い対中関係」を断った。その後、中国はRCEP(地域的な包括的経済連携)やTPP(環太平洋パートナーシップ協定)への加入をせっついている。1個目を食べることができなくなったから、2個目、3個目を食わせろと言わんばかりだが、余程用心しないと二度目、三度目の失敗を招く。その時にこの親中的な外相で大丈夫か。
 派閥の名誉会長からの引退を9月に表明した宏池会の大御所、古賀誠氏は「宏池会の政治方針は『軽武装、経済重視』だから今、岸田は政権に就かない方がいい」と岸田氏を戒めた。古賀氏はこれが保守本流の考え方だと主張していたが、思想的な保守本流はかつての池田派でも佐藤派でもない。彼らは憲法を放ったらかしにしただけだ。
(令和3年11月10日付静岡新聞『論壇』より転載)