2021年10月の総選挙は過去、繰り返してきた自民と野党との関係を根本的に変える兆候を示している。政権は選挙前と変わらないが、今回、立民と共産が共闘したにもかかわらず、両党とも議席を減らした。
一方で、維新が30議席を増やして4倍にも伸び、劣勢を伝えられた国民民主も3議席増やした。これまで選挙民は自民が嫌なら、立憲か共産に投票するしかなかったが、第三の選択肢がはっきりと出現した。自民も立憲もイヤという人は、維新か国民に入れるという選択肢ができたのである。これまで第3政党が出現したとしても、新自由クラブ、さきがけ、みんなの党など数回の選挙で消えていったが、維新は十分に継続して存在できるだろう。憲法改正、日米安保条約維持という国家の基本問題に加えて、行政改革について、実績は高く評価されている。票を入れるに足る資格を備えた政党である。
立民と共産は、これまでのように議会運営にまで手を突っ込んで「審議させない」という邪道の手を使えなくなるだろう。立民はこれまで「安倍政権の下では憲法論議はしない」「国民投票法の改正を優先」「コロナ禍で政治的な余裕がない」など、憲法論議を先延ばしする理屈を次々と捏ねてきた。かつての社会党は、議会で3分の1とれば十分と満足していた。敵に3分の2を取られると憲法を改正されるからだ。現在の立共共闘の目的も、基本的には旧社会党と同じだ。敵の目的を妨害するだけで、自らの目標がないのだ。
総選挙で立民は政策も何やら呟いていたが、新国会では「モリ・カケ・サクラ」で行く、というかけ声の方が大きく響いた。おかげでその専門職とみられた辻元清美氏は落とされた。辻元氏の落選をあげつらっているのではない。今回の選挙では大衆が、政党というものが何をしなければいけないかを知っている、ということを示したのだ。
共産党が他の党と致命的に違うのは、人事と政策の独裁制だ。立民と共産が共闘したと聞いて、連合の芳野友子会長は「会員の票の行き場がなくなった」と失望感を吐露した。連合は立民の母体のはずだが、連合自体は「反共」だった。その共産党は日米安保廃棄、天皇制廃止が原点である。しかし立民は日米同盟を認めており、「共闘」は根本的な矛盾を孕んでいる。
しかし台湾有事はそこまで迫っており、台湾有事は日本有事と同時進行である。そういう緊迫感を国民も感じているらしく、朝日新聞の世論調査でも「野党に期待できず65%」(11月8日)と出ている。来年の参院選では一人区が32区ある。立・共はここに全野党が共同して一人を立てれば野党が勝つと勇んでいる。しかし立・共を中心に野党が一本にまとまることはないだろう。維新・国民が新しい道を示し、自民からも立・共からも票を集める図体の大きい第3極が出現する可能性がある。世論調査を見ると共産党が抱き着けば抱き着くほど立民の支持率が減る傾向が強まり、共産自体も支持を減少させつつあるのが見てとれる。
(令和3年11月24日付静岡新聞『論壇』より転載)