「世界を蝕む中国の現実に日本の声が聞こえてこない」
―先端技術引き揚げと人権問題で攻めよ―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 中国の習近平主席は今秋に共産党大会で、自らの第3期目の任期に備える目論見のようだ。4月に米インド太平洋司令官を辞任したフィリップ・デビッドソン氏は在任中の3月、米上院軍事委員会で「習氏の3期目が切れる27年末までの6年以内に、中国は台湾を侵略する可能性がある」と述べた。退任後も同趣旨を述べているから、軍人の脳に閃くものがあるのかもしれない。米中の戦力差について「肉迫しつつあるものの、まだ米国の方が優勢な状況だ」と述べている。海軍力だけの比較なのか、総合戦力なのかは不明だが、日米豪印のクアッド、米英豪の軍事同盟AUKUS等が慌ただしく浮上してきたのは、中国の軍事力に対抗する必要があるとする世界的な判断からだろう。
 米側は軍事力以外でも中国が“突出”しないための対策を次々に打ち出している。米国の安全保障への脅威と見なした通信機器に対し、国内使用を制限する「中国通信機器排除法」を制定した。これによって中国通信機器製造大手の華為技術の製品が排除対象となる。
 中国の組織的スパイ工作作戦と見られる「千人計画」も米国は徹底的に消滅させる方針だ。日本の学者集団、学術会議は「日本の軍事研究には加わらない」と宣言する一方で、中国の軍事研究の手助けは見て見ぬ振りをしている。公然と利敵行為をする学術団体は解散させるべきだ。
 一方、西側民主主義国が声を大にして非難しているのはウイグル人に対する人権侵害だ。かつてはチベット、内モンゴルで同様の侵害が行われた。中国の“不法行為”を声高に非難し、圧力を加えることで、世界の人々は民主主義の尊さを理解し、中国圧迫に加わるようになる。正義を唱える日本の声が一段と小さいのはどういう訳か。腑抜けた外交をやってもらいたくない。
 冒頭に掲げたデビッドソン氏は、米中戦争は「中国の内政事情が動因になる」と語っている。国内で暴動が起こるようになれば、その怒りを台湾にぶつけることになる、ということか。しかし台湾人の87%は中国が現状変更を企てれば「戦う」と答えている。
 現状でハッキリしていることは、日本は今後とも「日米一体」となっていなければ滅ぼされかねないということだ。米国もアジアで、日本なしで中国に対抗することが困難になりつつある。
 中国の不動産大手「恒大集団」は500兆円とも600兆円とも言われる負債を抱え、倒産必至と言われた。しかし習政権はどういう手段を使ってか、倒産に至らないよう支えているように見える。経済評論家の大半は当然のように恒大破産を予想していたが、破綻だけは免れている。個人用マンション一戸が年収の20倍前後にまで暴騰し、庶民の夢は打ち砕かれたという。バブル崩壊となればリーマンショックの10倍程の規模になり、社会の安寧を壊すと習主席は判断しているのだろう。
(令和4年1月5日付静岡新聞『論壇』より転載)