日台安全保障について

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上席研究員・新台湾国策知庫諮詢委員 廖雨詩

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(1)今後10年の日台の安全保障協力について必要なこと
 近年、日本は日本と台湾を繋ぐ海域において多くの国と共同演習を個別に実施している。その演習は人道援助や災害援助を含んでおり、台湾の参加を含めるべきだ。将来、もし台湾が日本との防衛協力の潮流を観察・理解する―台湾が演習に参加、交流し、各国と中国の侵略に対峙する豊富な経験を共有する―ことが出来れば、より強靭で堅固な第一列島線の安全保障を形成することができるだろう。
 日米台の三ヵ国防衛協力への需要は明らかである。第一列島線の戦略的重要性や、増加する中国による台湾海峡への大規模な侵攻を開始する可能性を考慮すると、中国の侵攻を止めるために日米台で緊密な協力関係を形成しなくてはいけないだろう。
 中国の日に日に強度を増す三戦攻勢を効果的に封じ込めるために、日台はすぐさま統合戦略対話から日米台の安全保障協力枠組みへと米国の軍事力を説得して動かすための努力を増やしてゆかなくてはならない。日米台は、国際災害救助活動及び事故予防手段、非戦闘員の退避、オンライン協力、捜査と救難、海上安全(海上安全状況の理解等)、飛行域管理の調整、情報共有システム、航行計画、航空連絡メカニズムの実施を迅速に展開すべきだ。
 特に、日台間の戦略対話は定期的且つ頻繁に開催されなくてはならないし、固定化された対話モデルがその後も続き、確立されなくてはならない。昨今の国際情勢に応じて、日台両国が長期的な利益を達成するためには、日台間交流において段階戦略―徐々にコンセンサスに基づいて内実を深め、その後状況に応じて徐々にレベルを上げる戦略―を用いなくてはならない。
 重要なことは、「可能な地点から始める」ことであり、「結果を達成する」ことである。実質的な協力の進展は象徴的な進展よりも重要である。それは民間シンクタンクや大学、その他の機関にとって、戦略対話や「トラック1.5外交」の研究に従事することは難しいことではない。防衛関連協力に関して言えば、中国人民解放軍海軍や空軍の日々の活動を監視することが一層大切になる。この観点から、日米台の防衛協力はより実用的になってきている。
 
(2)台湾有事(中国の台湾進攻)の際に日本(自衛隊)に期待すること
 今回、初めて日本の最新の防衛白書は「台湾情勢の安定が日本の安全と国際社会の安定にとって不可欠である」とはっきりと言及している。加えて、これもまた初めて、台湾は中国の章から外れ、独立して新たに設けられた「米中関係」の章として挿入されている。これは2021年春に刊行された外交青書と同様である。
 中国の軍事的台頭は明白であり、米中間の軍事力バランスは徐々に中国優位に傾いてきている。自由民主党は、もし中国が台湾に侵攻すれば、日本が支援のために自衛隊を動員しなくてはならないことを理解している。現時点で、日本政府は平和安全法制によって規定された「重要影響事態」及び「存立危機事態」の立法的定義の慎重な見直しを、台湾海峡における緊迫した情勢を想定して開始したいとしている。台湾は同立法が一刻も早く議論されることを望んでいる。実際は、状況が想定されてはいるが、自衛隊の参加範囲と方法は詳細には計画されていない。日本は今、自衛隊参加のためのシミュレーション試算を開始することが望まれている。
 
(3)現在、日台関係で最も懸念されること
 日本の「一つの中国」政策はその前提を変えないものの、日本は台湾が単独の国家として実際に独立的に機能し、中国の国家機能と直接の関係がないということを理解している。
 もし日本が米国と台湾が締結したものに類似した台湾関係法を制定することがあれば、それは最良のことであろう。もしそれが実現したら、日米台三ヵ国関係は強固なものとなるだろう。米国は台湾と台湾関係法を結びつつ、日本と70年間に及ぶ公式の同盟関係を築いてきた。しかし、日本と台湾の間には何も公式の関係がない。このような状況にあって、日台が長い歴史的な関係、深い文化的結びつき、緊密な経済関係、そして価値を共有してきたにもかかわらず、日本と台湾の関係は弱いものである。
 少なくとも台湾と日本は、議会チャンネルを通じて、両者間の実質的な交流と対話を拡大・増進するために、台湾人議員が米国の提案に従い、日本版「台湾旅行法」の立法化を活発に促進すべきである。もし、日台が公式訪問団を活用することが出来れば、それは両国の省官庁にとって有益だろう。両国の交流はより円滑なものとなることが見込まれる。一方で、日本からの台湾による環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTTP)加盟交渉やWHOおよび他の国際機関への加盟に対する支持表明によって、交流のレベルを上げることが可能になるだろう。
 日本にとって台湾との如何なる外交・防衛交流に関与することも、未だ前面に出すことは日本政府にとって困難なことである。これが今の政治の現実である。しかし、他の観点から見れば、過去において、政府機関に所属していない研究者や専門家は、近年は国会議員達によって取って代わられつつあり、彼らはトラック2外交とトラック1.5外交の交流に従事してきた。事実、彼らは政府間交流より多岐に亘って議論することが可能であり、そしてより自由に踏み込んで(互いの情勢を)把握することが可能である。私は公的な形式かどうかという点に拘る必要はないと考えているが、頻繁に交流が行なわれ、より重要な政治的問題についての議論が徐々に深化してゆくことこそが、実質的な結果を生み出すだろう。
 日本と台湾は第一列島線の北限に位置している。両国の間の経済、工業、そして科学技術に関わる力強い協力が経済安全保障において重要だ。米中貿易戦争において、日本の産業は大きな影響を受けており、近年中国は経済分野において中国の戦略を浸透させ始めている。日本は技術やデータと同様に、日本発祥の高度な技術が中国人民解放軍に流出しないように注意深く対処しなければならない。この観点で、台湾は豊富な経験を提供することが出来、また経済安全保障分野における協力は相対的に適切かつ容易に始めることが出来る。
 昨今の中国の影響と侵入を受けている日本のソーシャルネットワークサービス(SNS)はより一層深刻な問題となりつつある。我々はグレーゾーンにおける情報共有とネットワークセキュリティにおけるいくつかの改善のために、ソーシャルメディアにおいて台湾が中国からの侵入に対処した経験が活用されることを望んでいる。台湾は多様な方法で中国から行われる日本では考えられないようなサイバー分野での脅威に対処してきた。そして他の民主主義諸国はもっとこの点に注意を払うべきだろう。サイバー分野での協力は他の防衛協力よりも敷居が低く、良い開始点になるのではないだろうか。
 日本、台湾、米国は中国の軍事、産業、文化的侵略に対抗する計画を共同で研究するJUST計画(日米台プロジェクト)を形作るために可及的速やかに三ヵ国から専門家を採用すべきだ。