ロシアや中国、イラン、北朝鮮などの反米勢力の大胆な攻勢はいまの世界に第二次大戦以来の最大の国際危機を生んでいる――こうした重大な認識がアメリカ側の識者の間で語られるようになった。この危機はアメリカの抑止力の衰退、とくにバイデン大統領の対外姿勢の弱さに起因するとする見解も同時に超党派の広がりをみせている。
ロシアのプーチン大統領のウクライナに対する戦略がヨーロッパ全体の安全保障構図の改変をも目指す野心的な動きだとするアメリカ側の見解は連邦議会下院軍事委員会の民主、共和両党の3議員によっても表明された。
昨年12月にウクライナを緊急視察した下院軍事委員会の民主党のルーベン・ガレゴ、セス・モウション両議員と共和党のマイク・ウォルツ議員は1月中旬、3人の連名でバイデン大統領がウクライナへのアメリカからの緊急軍事援助を早急に実行することを勧告した。
3議員はロシアの動きについて「ウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟阻止の名の下にロシアの勢力をウクライナからさらに東欧へと広げ、NATO全体への侵食から弱化を意図している」と述べた。
3議員はまたプーチン大統領の政策については「大ロシアの復活の意図」だとも強調し、この構想はソ連共産党政権が1991年に崩壊して以来、最大の野望の明示だとも論評した。
ワシントンではこうしたロシアの勢力拡大を中国の膨張と重ね合わせる見解も多い。
安全保障研究機関の「外交政策調査研究所」のロバート・カプラン研究員は1月中旬に発表した論文でロシアと中国の両方を「修正帝国主義国」と評した。ロシアも中国も近代史の帝国の現代版のように軍事力に依存しながら自国の勢力圏を拡大し、周辺諸国を従属的な立場におこうとしている、という見解だった。
この見解から浮かび上がるのは、現在の世界がアメリカ主導の既成の国際秩序へのロシアと中国の根幹からの挑戦により激動してきた、とする認識である。著名な国際戦略研究者のカプラン氏はとくにロシアの動向について「第二次大戦後、一貫して確立されてきたアメリカと西欧諸国の連帯のNATO体制をも覆そうとしている」とまで論評した。
この種の情勢をさらに世界の広い範囲に拡大して、自由民主主義陣営にとってのグローバルな危機とみるのはハドソン研究所の特別研究員ウォルター・ラッセル・ミード氏の見解だった。国際政治や安全保障の研究で実績のあるミード氏は1月中旬にウォールストリート・ジャーナルに発表した論文などでその国際危機への警告を発していた。その骨子は以下のようだった。
・ロシアは明らかにウクライナ制圧により大ロシアの構築から旧ソ連体制の復活までの野望を抱いている。
・同時に中国は台湾への軍事侵攻などの意図をあらわにして、周辺諸国への軍事威圧をも強めてきた。
・そのロシアと中国がいまや軍事面でも連帯して、アメリカへの挑戦的な姿勢を誇示するにいたった。
・イランも最近はアメリカに対する挑戦的な姿勢を強めてきた。
・北朝鮮も一連のミサイル発射実験によりアメリカへの好戦的な態度を明示した。
・一方のアメリカ側陣営ではドイツがロシアに対して対決を避ける融和姿勢をみせている。
・NATO内部ではフランスもアメリカとは一線を画す対ロシアへの構えをみせ、米欧間の年来の堅固な連帯が揺らいでみえる。
以上のようなミード氏の描く国際情勢はまさに重大危機だと言える。
ミード氏はその原因の多くをバイデン大統領のアフガニスタンでの大失態で象徴された対外政策全般での軟弱さや不一致に帰していた。要するにいまの国際危機を招いたのはバイデン政権の責任が大きいとする指摘だった。
そのバイデン大統領はこの1月20日、就任1周年を画した。現在の危機と呼べる現象は1年前には少なくともまったく顕著ではなかった。やはり現在の危機的な国際情勢はバイデン政権が登場してからの現象だと言えるだろう。
こうした抗米勢力の突出的な軍事がらみの攻勢は日本にとっても危機をもたらしていることをいま改めて認識すべきである。