「選挙制度改革が必要なのではないか」との声を最近、頻繁に聞く。現行制度は96年の衆院選から導入されたが、それ以前の中選挙区制度の方が最悪だった。国会議員を入れた選挙制度審議会では、委員である議員がゲリマンダー(自己に都合の良い選挙区)を狙うため、結論に至らず、90年代になって17回目の審議会を議員抜きで発足させた。私も委員になって、世界中の選挙制度を勉強したが、驚いたのは、日本のような中選挙区制度は日本にしかないという事実だった。
中選挙区制は定員3~5人で同じ選挙区に同一政党から複数を立候補させてもよい制度である。当時、佐賀県の定員は5人で、全議席を自民党が占めた。当然、派閥が発生し、派閥の抱える議員の数は親分の集金力で決まった。派閥の人数は50人程度が相場だったが、田中角栄氏は120人を集めた。選挙となれば当然、酷い金権選挙である。田中派はロッキード事件、竹下派はリクルート事件を起こし、ついに党内から改革の火の手が上がった。
選挙制度審議会が目指したのは①金権政治の解消、②政権交代を容易にする制度―の2点である。
改革の決め手が小選挙区制度である、という点は全会一致で決まった。一人一区にすると小政党は消えていかざるを得ない。そこで比例代表制を並立させ、小政党の候補者も当選できるようにした。またカネあさりをしないように、議員には十分な歳費を支給する一方で、政治献金は少額でも厳しく規制した。年収2500万円プラス文書通信交通費を年1200万円。これで足りない人は能無しと言うしかない。この他、政党に対して年間約310億円の助成金が交付される。これで下策な政治献金は激減した。目指した改革の①は全う出来たと断じていいだろう。
問題は②で目指した政権交代が、何故日本だけ起こらないかである。昨年末、ドイツで行われた選挙では3党連立で社民党のオラフ・ショルツ氏が首相になった。傘下に緑の党と自由民主党を抱える。緑の党と自由民主はかねて環境問題で対立し、三党連立がうまくいくのか懸念されている。
アメリカのように民主、共和の真二つに集約される国は少なく、多くの国では4党、5党が競争して連立によって政権を目指す。
日本も自民、立憲、維新、公明、国民、共産と6党も揃っているのに、政権が膠着している。自民党は圧倒的第1党なのに、党是ともいえる憲法審議さえままならないのは何故か。総選挙の度に連立を入れ替えず、改憲反対(「加憲」と言っているが)の公明に引きずられているからだ。池田大作会長が黙して語らず、山口那津男党首も10年間もそれにならっている。自民党はこの愚劣な連立の結果、民意を反映することができない。
公、共両党は、共に政党ではなく、党首選挙のない結社、集団の類の独裁集団である。この際単独小選挙区制にしたらどうか。
(令和4年2月9日付静岡新聞『論壇』より転載)