衆院の“人権決議”で思い起こしたこと

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 2月1日の衆院本会議で「新疆ウイグル等における深刻な人権状況に対する決議」が賛成多数で議決された。だがこの決議、すこぶる評判が悪い。新疆ウイグル、チベット、南モンゴル、香港などでの信教の自由への侵害や強制収監などについて、国際社会から「深刻な人権状況への懸念が示されている」と指摘するにとどめたもので、極めて不十分なものだったからだ。2月2日付の『産経新聞』「主張」も「決議は自民、公明両党の執行部によって骨抜きにされてしまった。弾圧に苦しむ人々にもっと寄り添うべきだったのに、弾圧の張本人である中国政府に忖度(そんたく)したのは情けない」と当然の批判を行っている。
 産経新聞によれば、決議の構想が浮上したのは、1年前の昨年1月だそうだ。アメリカでチベット人権法が成立し、チベット亡命政権の代表機関が超党派の「日本チベット国会議員連盟」に日本での法整備を求めたことが契機となったそうだ。この動きに「日本ウイグル議連」なども加わり、中国によるウイグルやチベットでの人権侵害を非難する決議を国会で行おうという動きになった。
 この過程で自民党から公明党に決議についての打診がなされた。中国との関係の深い公明党は、この決議に難色を示したそうである。公明党・創価学会と中国の関係は非常に深いものがある。そのため骨抜きの決議になった。
 そこで思い起こしたことがある。中国共産党と日本共産党は、1966年に毛沢東が行った文化大革命以来、関係が長い間断絶していた。関係が正常化したのは、32年後の1998年だった。当時幹部会委員長だった不破哲三氏の判断によるものだった。その結果、2002年、当時中央委員会議長になっていた不破氏に中国側から招待があり、中国社会科学院で学術講演をして欲しいという要請があった。
 社会科学院というのは、中国の哲学及び社会科学研究の最高学術機構であり、総合的な研究センターとなっている。研究所31、研究センター45、研究者4,200人を擁し、国務院直属組織となっている。ここで学術講演をして欲しいという依頼に、不破氏は大喜びであった。その時の様子が『北京の五日間』(新日本出版社)という不破氏の著書に書かれている。中国から招待され、講演までさせてもらい有頂天になっている様子が手に取るように伝わってくる。
 この中国訪問には、実は私も同行した。社会科学院で講演とはたいしたものだと思っていた。ところが社会科学院に行ってみると不破氏よりはるか前に、創価学会の池田大作氏が講演していることが分かった。要するに中国の人たらしの1つが社会科学院での講演なのである。北京五輪でとってつけたかのように最終聖火ランナーにウイグルの選手を採用したが、そもそもチベット族とかウイグル族などという呼称自体がまやかしなのである。本来はチベット民族、ウイグル民族と呼ぶべきなのだ。そう呼ばないのは、民族独立につながる民族自決権を与えないためである。