「急務の国連改革」
―「拒否権」行使は国際問題の解決となっていない―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 「国連改革」が焦眉の急となっている。国連の常任理事国であるロシアが、独立国であるウクライナに直接侵入してロシア領に加えようとする。これはまさに泥棒、強盗的行為であって、こんなことが許されるなら世界中に安泰はない。ウクライナは旧ソ連の一部だったが、91年にソ連が解体した際、独立の道を選んだ。それを各国が承認し「ウクライナ」として歴とした独立国となった。国家の独立とそれを承認するやり方は、第二次大戦後に国連が設立されて以来確立されており、常任理事国といえども例外は認められない。
 今、ウクライナ南北で民間人が大量に虐殺されている。ロシアは否定しているが、その事実は国連が認定し、ロシアは裁かれねばならない。虐殺を非難する決議案をフランスが国連安保理に提出しようとしているが、ロシアが決議案に拒否を表明すれば、虐殺は世界のどこからも公式に認定されない。
 要するに、一つの重要な国際機関が全く機能しなくなっているのだ。安保理では、第二次大戦で勝利した米英仏中露の5ヵ国が常任とされ、その他に10ヵ国が非常任として選出される。議事は常任の1ヵ国が反対しても成立せず、これを「拒否権」と呼ぶ。
 5常任理事国の拒否権行使回数を見てみると45年の国連発足以降、旧ソ連時代も含めたロシアが最多の119回、米国は82回、英国29回、中が17回、仏が16回である。この回数はどう見ても乱用としか言えないし、世界に生じたトラブルがその都度うまく解決しているとは思えない。かえって衝突を激化させているだけはないか。国連は、問題が起こる度に国際仲裁裁判所に判断を求める。中国が南シナ海の岩礁に軍事基地を作り始めた時のこと。国際仲裁裁判が「そこは岩礁であり、中国領ではない」旨の判決を出したが、中国は「そんなものは紙屑だ」と罵倒した。
 ロシアがキーウ(キエフ)に侵入し、プーチン氏が「2日で終わる」と大きな顔をしていた頃、軍事専門家の一部は「これが終わった途端に、中国が台湾を獲りに来るかもしれない」と怖れた。中国は日頃から「台湾を獲る」と豪語しており、ロシア方式で来るかもしれないと思ったのだ。ロシアの無様な戦争を見せられて、中国も、早々には侵略戦争に踏み切るまい。
 米国は、台湾との間で結んでいる「台湾関係法」の中身を具体的に明らかにした方がいい。その軍事同盟の中身が重々しく、詳細であればある程、中国の台湾侵攻は難しくなる。
 一方で早急に確立しなければならないのが国連改革だ。先に常任理事国の拒否権行使回数を挙げたが、米国が多いのはイスラエルに関係する軍事問題。英仏は90年以降拒否権を行使していない。中国はロシアと共に行使する確率が高くなりつつあり、国連は中露の世界支配の道具になる気配だ。フランスは国連改革を目指しているが、中露を除外してつくり直す以外に再生の道はないだろう。
(令和4年4月27日付静岡新聞『論壇』より転載)