ロシアのウクライナ侵略によって、ドイツの国防政策ががらりと変わった。その変わり様は、恰も左から右へ一変したかのようだった。それまでのドイツの生き方は、できるだけ軍備を少なくし、経済発展を図って国民を豊かにするというものだった。軍事費はGDP比1.5%程度で、NATO30ヵ国中、中堅以上の国としては最も低かった。NATOの主要国が軍事小国であることについて、米国は常に不満を漏らしていたものだが、状況は一変した。
当初はヘルメット5千個の支援などと言っていたドイツが、ロシアの侵攻2日目には、一変して重火器支援を打ち出した。また軍事費のGDP2%以上を明言した。
オーラフ・ショルツ独首相は一夜にして目覚めたということらしいが、与党は3党連立。ショルツ氏は206議席の社会民主党を率いているが、政権内の最左派と目される緑の党も118議席を保有する。197議席の自由民主党から異論が出なかったのは不思議ではないが、緑の党が新方針に黙って従ったのは不思議だ。これは政党が瞬時に国際情勢を判断できる資質を備えているからだろうか。
ドイツの総選挙は常に3~6の政党を生み、常時2~3党が連立を組む。今回は3党連立でメルケル政権から脱皮した途端に、ロシアのウクライナ侵略という事件が起きた。その瞬間にドイツは米国と一体となり、NATOを守る大方針に大きく舵を切ったのである。
このような事件は将来、中国の台湾侵略という形で現れるかもしれない。しかしウクライナと同じような侵略があっても、日本の政党はドイツのような見事な対応をとれないだろう。ドイツでは政党人が愛国者なのか、国のためにならない規制や決まりは、一瞬で変える潔さがある。日本の政界が自らきっぱりと判断できない原因は、日本共産党が存在するからだろう。この党は1922年にレーニンによるコミンテルンの支部として誕生した。端的に言えば国際社会主義を樹立するために設立したものであって「日本のため」ではなかった。この生い立ちはソ連時代も有効だったらしい。名越健郎氏(拓殖大教授)のソ連機密文書の調査によると、1951年から63年にかけ、ソ連から日本共産党に対して計85万ドル(現在の貨幣価値で約30億円以上)が供与されていたという。
共産党の党是は「非武装(日米同盟破棄)」と「非同盟」である。こういう立場を全うした時、ウクライナのように隣の国が殴り込んできたらどうするのか。志位和夫委員長は「とりあえず自衛隊を使う」というのである。このセリフには、国のために死んでくれる人が同胞であるという、いたわりの気持ちが全くない。日本共産党もひっくるめて、多数連立を形成するという作業が日本だけ成り立たないのは、共産党に愛国の心がない点に行き着くのではないか。この党が掲げている「9条」にも、愛国心を微塵も感じ得ない。
(令和4年5月11日付静岡新聞『論壇』より転載)