北海道知床半島沖で観光船「KAZUⅠ」が沈没し、多くの犠牲者を出した。この重大事故の最大の責任が運航会社「知床遊覧船」と桂田精一社長にあることは言うまでもない。運航会社と同様に重大な責任のあるのが国交省である。
4月27日、斉藤鉄夫国土交通大臣は、「桂田社長が、乗船者のご家族に対し、謝罪と事故経緯の説明を行っておりますが、その内容は、到底ご家族のご納得を得られるものではなかったとの報告を受けております」と語った。これには強い違和感を持った。責任逃れの言葉にしか聞こえなかったからだ。
そもそもこんな会社が観光船を運航することを認めてきたのが国交省である。観光客は、この運航会社がどんな会社なのか、船長はベテランなのか、甲板員は経験があるのかなど知る由もない。だからこそ安全確保は運航会社と共に国交省の責任でもあるのだ。
「KAZUⅠ」は、波の穏やかな瀬戸内海で使う旅客船として約40年前に建造されたものだったという。船舶業界に詳しい関係者は、「静かな内海仕様だった『KAZUⅠ』を、波の荒い知床沖で使っていたというのは、ちょっと信じられません。外海仕様に改造したとしても、常識的ではないでしょう」と語っている。
また昨年、座礁など3度も事故を起こしている。だが国交省は何ら処分も行なっていない。事故の事実を公表し、行政処分を行なっていれば、観光客への注意喚起に繋がっただろう。
国交省によると「KAZUⅠ」が事故の3日前に受けた日本小型船舶機構(JCI)による検査で、衛星電話から携帯電話に通信手段を変更して申請し、検査を通過していたのだ。この際、豊田船長に陸上との通信が可能か尋ねたところ、「繋がる」と答えたため、検査を通したというのだ。しかし、実際には船長の携帯はauのため通信圏外になっており、通じなかった。事故の際も118番通報は、乗客の携帯からだった。水難学会などでは、通信手段は「第二のセーフティネット」として重視している。それがこの大甘な形だけの検査しかしていなかったのだ。
それだけではない。海上運送法施行規則には、運航管理者の要件として、①船長として3年以上または甲板員として5年以上の経験②運航管理の3年以上の実務経験――などと定めている。桂田社長は、自らが3年以上の実務経験に該当するとして北海道運輸局に書類を提出していた。北海道運輸局は、これも何のチェックも無しに認めてきた。
4月28日のテレビのニュースで、知床の観光船会社に北海道運輸局の検査が入った様子が放映された。型通りのチェックを進める北海道運輸局の担当者に対し、知床ネイチャークルーズの長谷川正人船長が担当者に詰め寄り、「書類ばかりやってるから事故が起きるんだ。アンテナ確認とか、(無線が)通じるのかとか、こういうことやれば、もう少し悲惨でなかったかもしれない」と形だけの検査に怒りの声を上げていた。
「知床遊覧船」と国交省は同罪である。