「全国旅行支援」など必要ない

.

政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 それにしても政府も自治体も観光になぜこれほど熱心なのだろうか。また県民割だとか都民割だとかが始まった。今度は「全国旅行支援」だという。コロナ感染が第7波に入ったと言われる中で、これにとりあえず待ったがかかっている。
 観光に関わる企業や業者は喜ぶかもしれないが、本当に必要な策なのか。最近の土日などは、多くの観光地で人がごった返していた。県民割などを使った人もいるだろうが、ほとんどはそうではないはずだ。コロナさえ収まれば、税金を使わなくても観光客は増える。コロナ禍で観光に行きたくてしょうがない人が山ほどいるのだ。
 「観光立国」ということが叫ばれたが、私には強い違和感しかなかった。この背後には、日本の国力の低下、国民所得の減少がある。
 OECDが加盟諸国の年間平均賃金額のデータを公表している。2020年のデータによると日本は3万8,515ドル、アメリカは6万9,391ドル。日本の賃金はアメリカの約半分しかない。ヨーロッパ諸国を見ると、ドイツが5万3,745ドル、フランスが4万5,581ドル、イギリスが4万7,147ドルである。韓国は4万196ドルであり、日本を上回っている。これでは、日本国内の消費が低迷するのは当然なのだ。
 2020年8月25日付『産経新聞』の正論欄に、施(せ)光恒(てるひさ)九州大学教授の「『観光立国』路線の根本的見直し」という論考が掲載されている。同教授は、コロナ禍で、「見直しを図るべきものの1つに『観光立国』政策がある」と指摘。「そもそも『観光立国』を掲げてきた主な理由は、日本国民の多くが以前より貧しくなり消費を控えるようになったからだ」などと指摘されている。その通りだ。
 日本の大企業の力も落ちている。コロナ禍であったにも拘らず、日本のどの製薬会社もワクチンを作り出すことはできなかった。半導体製造も世界から大きく後れをとっている。賃金を上げることもできないのが、日本の大企業・財界の実態だ。これは恥ずべきことだ。こういう所にこそメスを入れ、根本的な解決策を見出すことが政治に求められている。
 「ふるさと納税」もそうだ。このネーミングにどうしても納得できない。大阪の泉佐野市の場合、2018年度の寄付額は497億円で、市税収入の2~3倍になっているという。ほとんどの寄付者が泉佐野市とは何の関係もない人々だろう。同市をふるさととも思っていないし、応援しようとも思っていないだろう。では何のために寄付をするのか。返礼品を貰うためである。
 返礼品によって寄付額に大きな差が生まれる。これが公平なやり方なのだろうか。しかも、寄付をする人が住んでいる自治体の税収は減るのである。東京23区の多くは入ってくる寄付額より、税収の落ち込みの方が大きいという。所得の高い人ほど大きな税優遇を受けるという矛盾もある。これでは“ふるさと裏切り納税”だ。実に品のない制度だ。
 困っているのは観光業者だけではない。もっと幅広い視野を持った支援をして欲しいものだ。