日本学術会議が軍事と民生双方で活用できる「デュアルユース(軍民両用)」の先端科学技術研究を事実上容認する見解をまとめた。
これについて日本学術会議(以下、学術会議)梶田隆章会長は7月25日、小林鷹之科学技術相に宛てて「軍民を単純に二分することは困難」とする文書を手渡した。こういう大仰な儀式をしたのには思惑があったようだ。このデュアルユースで学術会議に6人が追加承認されると念じていたようなのだ。
学術会議はこれまで軍事研究はしないという主旨の声明を1950年、67年、2017年と3回も出してきた。この声明は国内の軍事技術開発部門には全く不評で、中国やロシア側が一方的に得する内容だった。日本共産党は旧ソ連や中国の指示で火炎瓶闘争を始めたことがある。これに対して政府は1952年破壊活動防止法を作ったが、学術会議はこの破防法の成立にも反対した。学術会議は国の機関であるにもかかわらず、公然と政府に盾突く存在だったのである。
学術会議はその後も共産党の原水爆禁止運動を支援した。最近では特定秘密保護法に反対、新安保法制に反対、憲法改正に反対と、言ってみれば、あらゆる反政府運動に献身している。2017年には「軍事研究はしない」旨の声明を出した。その2年前には中国との間で「日本学術会議と中国科学技術協会との協力覚書」を交わしている。業績を辿っていくとまるで日本共産党の反日本民族、親中国路線を辿っているようにしか思えない。日本学術会議の面々はデュアルユースを認めたご褒美に、先に任命を断られた6名のメンバーの加入が認められるかもしれないと期待していたようだ。しかし思惑は、まるで外れた。
かつて共産党に所属していた篠原常一郎氏が雑誌で以下のように語っている。「日本学術会議に集まっている人たちはかなりの部分が共産党員といえます。今回6人の方が任命されなかったと仰っていますが、一人一人を具体的に見ると共産党がコントロールしている団体に入っている人が多い。6人のうち3人までは法学者でいずれも民主主義科学者協会(民科)の幹部です」(雑誌「明日への選択」令和2年12月号)。
共産党が6人の就任にこだわるのは、政府の意思で「任命されない」と判明すると、学者たちの日本学術会議に対する態度が変わるきっかけになりかねない、と心配したのではないか。30年ほど前、内閣総理大臣が「学術会議を廃止せよ」と主張した理由は全員共産党でまとまった風があったからだ。今回の失敗も、巧妙な選挙で共産党が主流を握る形が表に出すぎたからだ。そこで政府は①共産党が主流になるようなら学術会議を廃止する、②名簿は事務局が決めたままでは通さない――の2点を決心したのだろう。デュアルユースを認めたからといって、何十年にわたる政府の失望が回復する訳がない。政治運動が体質となった団体が、正常化したためしがない。
(令和4年8月3日付静岡新聞『論壇』より転載)