8月2日付『産経新聞』に河野克俊前統合幕僚長が、「国守るタブーなき安保戦略」というタイトルのコラムで安倍元首相の功績を述べている。私も安倍元首相の政治姿勢の特徴は、「戦後の虚構」とも言うべき「常識」の取り崩しに挑んでいったことだと思う。
例えば集団的自衛権の問題だ。日本とアメリカは日米安保条約を結んでいる。これは紛れもなく軍事同盟である。軍事同盟である以上、当然、集団的自衛権の行使が前提となる。集団的自衛権は、直接に武器を使用することだけではない。
もともと安倍元首相の祖父である岸信介首相(当時)は、概略次のように国会答弁をしていた。「一切の集団的自衛権を憲法上持たないということは言い過ぎだ。他国に基地を貸して、そして自国の自衛隊と協同して自国を守るということは、当然従来から集団的自衛権として解釈されている」(1960年3月31日、参院予算委)。限定的ではあるが集団的自衛権は行使できるとしていた。
ところが1981年5月29、当時の鈴木善幸内閣が政府答弁書を衆院に提出し、「集団的自衛権を行使することは、憲法上許されない」と述べたのだ。以降、数十年に亘ってこの答弁が維持されてきた。
これを打ち破ったのが安倍氏だった。「我が国の安全に重大な影響を及ぼす可能性があるとき、限定的に集団的自衛権を行使することは許される」という考え方を明確に打ち出し、2015年9月に安保法制を成立させた。これによって日米軍事同盟はより強固となった。
安倍元首相は、憲法の改正にも真剣に取り組んできた。2017年には、憲法9条の改憲提案も行っている。その提案とは、9条について1項、2項はそのまま残して、新たに3項を立て、自衛隊の存在を明記しようというものである。
憲法9条と自衛隊というのは、もともと虚構の関係にある。9条2項には、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」とある。軍隊は持てないということだ。だが独立国家である以上、軍隊は必要だ。そこで考えだしたのが、憲法9条2項が禁じた「戦力」は保持できないが、「必要最小限度の実力」は保持できるというものだった。しかし、自衛隊は、国際的には軍隊として認められている。国民も大多数がそう見ている。いつまでもこんな虚構を続けてはならない。
安倍首相の改憲提案では、次のように述べている。「多くの憲法学者や政党の中には、自衛隊を違憲とする議論が今なお存在する。『自衛隊は違憲かもしれないが、何かあれば命を張って守ってくれ』というのは無責任だ」「1項、2項を残しつつ、自衛隊を明文で書き込む考え方は国民的な議論に値する」。
まったくその通りである。自衛隊は国際的にも軍隊として認められている。自衛隊違憲論者であったとしても、多くは自衛隊の必要性を認めている。日本共産党ですら、即時の解体など打ち出せないでいるのだ。現憲法が施行されてからすでに75年経っている。
虚構を打破するというなら、9条改正に真剣に取り組むべき時だ。