岸田文雄首相は中国側の不法に対して一切、反論せず、林芳正外相も反論すべきことについても押し黙る姿勢を取っている。これこそ土下座外交の典型だ。かつて北城恪太郎IBM元会長は、小泉純一郎首相に「モノが売れなくなるから総理は靖国神社に参拝しないでくれ」と頼んで小泉氏に無視された。これに懲りたのか経団連はその後、訪中は政治家と共に行くようになった。
先日亡くなったJR東海の葛西敬之氏も社長時代、トヨタの会長から同行を乞われ「中国との商売はしませんよ」と断った。「中国は一両ずつ(新幹線の)先頭車両と客車を買い、後はコピーを作って、故障したら日本のせいにしますよ」と言っていた。その後の展開は、だいたい氏の予想通りとなった。財界人は「中国14億人、日本1.2億人。この人口差では中国に敗れる。それなら最初から頭を下げた方がよい」との判断だ。
中国は自ら4千年の歴史を積み重ねてきたと言う。しかし4千年前の殷王朝に始まり、中国の大地には何百もの国々がバラバラに興ってきた。今もなお50以上に渡る民族や100種類近くの言語が存在している。その多様な世界が一挙に終わって、整然とした共産主義体制が未来永劫に続くなどとは到底信じられない。中国が目下、不動の強みを見せているのは、共産主義体制によって政治体制を固めたからだ。この30年間で軍事費を40倍にした上、さらに2045年には軍事で世界の一流国になることを目指している。しかし中国がこれまでトントン拍子に軍事大国化できたのは、世界が中国に甘く接してきたからだ。中国は貿易上の様々な優遇措置を与えられた上、西側から軍事機密をただ同然で懐に入れてきた。
西側は中国への対応の間違いに気づき、軍事機密へのアクセスを厳しく制限するようになった。例えば中国は西側に学生を派遣して人材の育成に励んできが、その泥棒的手法に学生は各国から追放の憂き目に会っている。
さらに西側は公正な貿易慣行を厳しく求めるようになった。優遇的な扱いも一切やめた。今後、中国が独り立ちして、同じスピードで成長できるのか。中国は不況回復を狙って途上国に「一帯一路」と称する公共事業を持ち込んだが、事業を拡大しすぎてあちこちで行き詰まっている。中国はこれまでの手口を塞がれ、ぶっ壊れた自国経済を立て直せるのか。
最近、中露首脳らと会談して最も的確な言葉を吐いた老人がいる。インドのモディ首相だ。「もう戦争の時代ではないよ」と。
この会談は中露が主導する地域協力組織「上海協力機構(SCO)」がウズベキスタンで開いたもので、中露印を始め14ヵ国の首脳が参加した。プーチン氏の思惑は当然、戦争への支援だったが、どの国からもやんわり断られたらしい。中国はロシアを子分に出来る絶好のチャンスだが、ロシアと緊密になれば中国の負担が増え、中近東やアジアに手を伸ばしにくくなる。
(令和4年9月21日付静岡新聞『論壇』より転載)