政治にはどのくらいのお金をかけたらいいのか。日本は「政治とカネ」に対する考え方が他の西側先進国と違う。諸外国では、政治に金が入り込むのは当然と考える。アメリカでは大統領の娘や息子共が親の影響力の下で商売をしても、腐敗ではなくコネだと思っているフシがある。豪州のように金で政治を動かすスキャンダルが大規模に起こったこともある。
私が政治記者になった頃は「佐藤栄作時代」で、福田赳夫氏と田中角栄氏(共にのちに総理大臣)の両氏が政治資金を調達していた。福田氏に言わせると「政治は浄財で行うもの」。田中氏に言わせるとそういうセリフは「東大、大蔵省を卒業した奴の言うこと。なにしろ彼らは電話一本でカネを集めるからな」ということだった。浄財でカネが集まる時代は終わった。田中氏は列島改造でカネを懐にした。しかし田中氏が蔑まれなかったのは、集めた金の多くを子分に配分しているのを皆が知っていたからだろう。もっとも目白に田中御殿も建てた。それ以上の悪弊は政治家の倫理観を破壊してしまったことだ。
政治とカネが国の存亡問題になるところだったのは、オーストラリアだ。
豪州の不動産開発企業の黄向墨(ホアンシャンモ)は移民後も中国に忠誠をつくし、豪労働党、自由党、有力政治家に多額の献金をすることで、親中言論の発信拠点になった。「華僑たちは豪州の政治に参加する努力が足りない」とハッパをかけた。全華僑が中国共産党への支持者を増やし、批判を封じることになれば、豪州は世界に冠たる親中派になる。黄は元首相、元貿易相、労働党、自由党を問わず有力政治家に対して多額の献金を行った。この詳細は「目に見えぬ侵略」と名付けられた2冊の本にまとめられている(クライブ・ハミルトン著、飛鳥新社)。同書によると、豪労働党の上院議員サム・ダステリアは多額の献金を受け、ほとんど中国共産党の代弁者と言っていい発言を繰り返した。2017年スキャンダル発覚により、同議員は辞任した。
一方で、米大統領ジョー・バイデンの息子ハンター・バイデン氏の中国ビジネスも報じられている。2013年12月当時のバイデン副大統領の中国訪問に同行すると、彼の会社はその分野での経歴が乏しいにもかかわらず中国銀行を筆頭株主とするファンドを開設した。ハンター氏の持つ株式は約2000万ドルの価値があるという。さらにハンター氏はウクライナの電力会社の顧問になったという話も聞く。トランプ元大統領の娘であるイバンカ氏、その夫であるジャレッド・クシュナー氏も中国でビジネスを行っていた。ビジネスもグローバル化し、為政者や親族がそれにかかわるようになった。
大統領が中国に弱みを握られて、米国民は心配しないのだろうか。逆に今の日本は政治に清廉さを求める余り、あまりに小さな事件を、事件と言って騒ぎすぎるのではないか。
(令和4年10月5日付静岡新聞『論壇』より転載)