岸田文雄内閣の支持率が急速に低下している。7月の参院選で勝利を収めたときには、これからは「黄金の3年」だと言われた。これは衆議院を解散しない限り、3年間は国政選挙がないので政権は安泰だという意味である。選挙という民主主義の根幹だ。それがないことを極楽のようだというのだから不埒な話だ。だが岸田内閣の現状は、そんな気楽なことを言える状況ではない。
もう一つ「青木の法則」というのがある。これは官房長官を務め、“参院のドン”と言われた自民党の元参院議員青木幹雄氏が唱えたもので、内閣支持率と与党第一党の支持率の合計が50%を割れば、その内閣は倒れるという見方だ。先月、毎日新聞と社会調査研究センターが行なった世論調査結果では、岸田内閣の支持率が29%、自民党の支持率が23%と出た。この新聞の世論調査は往々にして低く出る。それにしてもこの調査では内閣と第一党の支持率の合計は52%ということになる。「青木の法則」に照らせば、明らかに岸田内閣は崩壊寸前の危機に立っていることになる。
だが岸田内閣は安泰である。自民党の中でも岸田降ろしの動きなどない。何よりも今の野党の現状では、この「青木の法則」も通用しない。今月の3日付朝日新聞の世論調査では、「成長と分配の好循環を目指す『新しい資本主義』を掲げている」「(この)岸田首相の経済政策に期待できるか」と尋ねると「期待できる」は25%、「期待できない」は69%となっている。物価対策では「評価しない」が71%にもなっている。惨憺たるものだ。
だが同調査で、「野党に期待できるか」という問いには、「期待できない」が81%にもなっている。野党は、もっと悲惨なのである。立憲民主党も日本維新の会もまったく期待されていないのだ。
今年は、私が在籍していた日本共産党の創立100周年の年である。例年、党創立記念講演会が行なわれ、その時の党のトップが記念講演をする。今年も志位和夫委員長が講演を行なった。言葉はいつも通り強気だが、その講演内容は志位氏の苦悩が手に取るように分かるものだった。志位氏が強調したのは、日本共産党の「中興の祖」とも言える宮本顕治元議長の非合法化での戦前の闘争や宮本氏が1961(昭和36)年に作り上げた党綱領の話など、ほとんどが昔話なのである。「日本昔話」の世界なのだ。この綱領には、「世界史の発展方向として帝国主義の滅亡と社会主義の勝利は不可避である」などと書かれていた。私などはそれを信じた世代である。だが実際は、社会主義の滅亡こそが不可避だった。大はずれだったのだ。
志位氏は講演を「『日本共産党』の名がいよいよ生きる時代に私たちは生きています」と締めくくったが、今や内部からさえ党名変更の声が公然と上がっている。
野党のこのだらしなさが岸田内閣をもたせていることを首相は肝に銘じよ。「聞く力」などととぼけたことを言っている場合ではない。政治家なら「語る力」をこそ示せ。