日本の政治は1996年の小選挙区比例代表制による選挙を境に大きく質が変わった。第一に変わったのは金銭部分である。変わる以前は、年末になると貧乏代議士は親分の家を訪ねて“年末資金”をもらっていた。「補助して貰わないと年が越せない」と訴えるのだ。貧乏の元が毎晩の料亭遊びが原因だったのだから自業自得だった。
記者は政治家と言えばもっと利口な人達だと思っているから、その破廉恥ぶりとの落差には驚いた。そういうお座敷会議で真面目な国際情勢を語れる訳がなかったし、ましてや“政権構想”を語ると言う雰囲気は皆無だった。
かつて石破茂氏は防衛省きっての軍事通である、と言われた。大臣を囲む高級官僚の会議が終わると幕僚長を呼び止め、精巧な軍艦のプラモデルを指さして「(本物の)この部分はどんな材料でできているのか」と尋ねたという。いくら優秀な幕僚長でも素材まで記憶していないだろう。防衛庁の大ベテランは戦略・戦術よりも武器の素材に詳しかった。
安倍晋三氏の出現以降は、ニセ防衛族は追っ払われてしまったようだ。安倍氏がとった新たな統治手法はまず“政治課題センター”のようなものを作る。そこに政策課題を出題して回答を求める。この方式は見事に成果を出してきた。各省で滞っていた宿題が次々に暴かれる塩梅だった。それまでは役所の機微はすべて財務省が握っており、財務省が答えを出さないと何事も決められなかった。安倍氏がやったように、主計局以外にアベノミクスのような“別財源”を作らないと、政治家は理想の分野に金を回せなかった。その結果が110兆円にも及ぶ大借金だ。財務省一省が君臨するという体制をなくすべきだ。
一方で野党の方はどうか。「共産党」とか「社会党」を名乗って、この人たちは自民党に反対するのが仕事だった。ところが選挙制度の改革で、政策の各論を述べることが必要になった。ところが共産党には「共産主義」とか「非武装外交」という以外にセリフはなかった。共産党は国際的にどのような外交を狙っているのか。諸国の中でどのような国と組むべきなのか。具体的に「この国がオレ達の友達だ」という国の名を挙げてみて欲しい。共産党は選挙区の1区で1万票の支持者がいるというふれこみである。かといって共産党と大っぴらに連立を組んだら、逆に1万票減ってしまうかもしれない。そこで最近は“暗黙”の連立を組む手を考え出したらしい。
しかしここ2回の衆院選を見ると「組んだ」という候補者たちは必ずしも得をしていない。ジワリと得票が減っているらしい。このご時世に政策を揚げるわけではなく「将来は共産主義だ」というだけの政党に希望を抱けるだろうか。共産主義は終わったのである。見本もなければ筋書きもない政党がどうやって国家を作れるのか。共産党が無くなれば、政界から異物が放出されて、すっきりした政界再編がおこるだろう。欧州諸国を刮目せよ。
(令和4年10月12日付静岡新聞『論壇』より転載)