アメリカはなぜ中国政策を間違ったか

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顧問・麗澤大学特別教授 古森義久

 中国共産党が5年に1度の党大会を終えて、習近平氏を党の総書記、国家の主席という独裁的地位に再び保持した。習主席はこれまでの世界覇権を目指す志向を改めて強調し、「中国式で民族復興」などというグローバルな野望を明示する政治標語を掲げた。アメリカとの対決はさらに激しくなるだろう。
 一方のアメリカも中国を危険視して、対決姿勢をますます強める。共和党のトランプ前政権が決定的にした中国への対決政策を民主党のバイデン政権もほぼそのまま引き継いだようにみえる。この姿勢は習近平氏の3期目の独裁統治の始まりとともに、さらに強固になるだろう。
 しかしアメリカ側のトランプ、バイデン両政権に共通するのは、過去の歴代アメリカ政権の対中政策はみな間違っていた、とする認識である。ではなにがどう間違っていたのか。
 この点での分析をワシントンでのセミナーでアメリカの対中政策の権威から直接に聞いた。その内容を報告しよう。その集いは大手研究機関のAEI(アメリカン・エンタープライズ・インスティテュート)でのアーロン・フリードバーグ教授の講演と討論会だった。
 フリードバーグ氏といえば、プリンストン大学の教授を長年、務めた著名な政治学者で、とくに中国や米中関係の研究を専門とする。二代目ブッシュ政権の高官をも歴任し、著作も多い。今回は『Getting China Wrong(中国を誤解する)』と題した本を出版した。同書はアメリカ政府が1979年に中国との国交を樹立して以来、長年にわたって採用してきた対中政策が基本部分で大きく間違っていたという諸点を多角的に分析していた。
 AEIでは今年8月末にこのフリードバーグ教授を招き、同教授の最新の書の紹介を兼ねて講演を催したのだった。私もこの集まりに加わり、講演や討論に耳を傾けた。そのなかでのフリードバーグ氏のアメリカの対中政策の錯誤への反省という部分に焦点をしぼって、内容を紹介しよう。
 フリードバーグ氏はまず現在の中華人民共和国という存在がアメリカを中心とする国際的な自由民主主義の秩序にとっての最大の脅威であるという基本認識を明確に語った。そしてこうした現状を生んだのはたぶんにアメリカとそれに同調する西側陣営諸国による過去の政策の失敗の結果だと、大胆に総括した。その「西側陣営」には当然、わが日本も含まれる。その過去の政策は「関与政策」だった。
 フリードバーグ教授はまずアメリカなどの関与政策の主唱者たちがその政策が生むだろう前向きの成果として以下の3つの期待を強調していた、と報告した。
 
(1)中国は自由民主主義の国際秩序を保持することによる自国への利益を認識し、その国際秩序に挑戦したり、破壊することはないだろう。
 
(2)中国は自国のグローバル経済への参入の増大により国家主導の経済を市場主導の経済へと移行させるだろう。
 
(3)アメリカなどが中国との関与を広げれば、やがては中国の国内の政治的自由化を促すことになるだろう。
 
 フリードバーグ教授によると、関与政策の支援者たちは中国がアメリカやその民主主義的な同盟諸国に対して脅威を与えることなく、以上のような変化を示すだろうと主張していた。
 しかし現実にはそのような「期待」に沿う動きはなにも起こらなかった。関与政策は失敗したのだった。
 フリードバーグ教授はその失敗の直接の理由として以下の諸点を指摘した。
 
(1)中国共産党政権の指導者たちは西側のアプローチを挫折させ、自国の目標を推進するための対抗策の確立に成功した。
 
(2)西側諸国の中国の考察者や対中政策形成者たちは中国共産党の弾力性、発想性、冷酷性を過小評価した結果、中国の動きを誤認することとなった。
 
 そのうえでフリードバーグ教授はとくにアメリカなど西側諸国の中国へのアプローチの経済面での実態についての誤算が大だったとして、以下の点を強調していた。
 
(1)西側の数十年に及ぶ中国の未来についての主流の主張は、中国が経済的に発展すれば、中国人民は経済面での冨に合致する政治的自由を求めるようになるため、必ず民主化が進むだろう、という骨子だった。だから中国の自由化のためには中国との経済関与を深め、広げることが最善の策だと信じられてきた。
 
(2)だが中国共産党政権の対外的な好戦性の拡大と国内での国民の監視と抑圧の深まりによって、この西側の見解も政策も決定的に欠陥があることが判明した。西側のアプローチのなにが間違っていたのか。アメリカもその同盟諸国も中国の台頭の意味についてなにを誤認したのか。全世界の民主主義陣営はいま中国による既存の国際秩序の規範や規則の侵食や破棄を防ぐためになにをすればよいのか。これらは切迫した課題である。
 
 フリードバーグ教授は以上のように現在と将来の課題についてはあえて、疑問形の問題提起でまとめていた。今後の中国の国際的な動きにどう対処するか。アメリカだけでなく、日本にとっても国家存立自体を左右するほどの重大な課題なのである。
 だが同教授のこの分析からは中国への対処に関してアメリカや中国がなにを、どう間違えたのか、という基本の命題は明らかになったといえよう。同じミスは冒してはならない、という教訓でもあろう。