「原子力を強化せよ」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 今、世界のエネルギーや原料の供給網に劇的な変化が起きようとしている。例えばドイツは、これまで頼ってきたロシアの天然ガス市場から締め出されようとしている。同じくロシア産天然ガスに頼る日本には、日露友好交渉を行って現状を守れという意見もある。しかしロシアはガスをドイツ叩きの絶好の材料と見ている。日本叩きにも当然利用するはずだ。日米を含む西側自由主義国対ロシア・中国の関係は、今後の国際秩序の大枠を形成するものだ。エネルギーの供給網も、この枠組みに沿って落ち着いていかざるを得ない。
 国際NGO「気候行動ネットワーク」は11月9日、気候変動対策に後ろ向きな国に贈る「化石賞」に日本を選んだと発表した。今年で3回連続の受賞である。化石燃料の関連事業に巨額の公共投資をしたこと、岸田首相がCOP27(国連気候変動枠組み条約会議)への参加を見送ったことなどを理由に挙げた。
 「化石賞」の受賞は国際的には恥ずかしいことだが、岸田首相はその恥を一挙に覆そうという提案を発表した。原発運転期間の上限60年の撤廃は、政権が長年温めてきたアイデアだったが、これを実現することになった。
 これまで日本の科学技術の世界は、左翼の影響にどっぷり浸ってきた。日本学術会議は設立当初から共産党の影響力にさらされ、80年代には解体論が叫ばれていた。それから少しは浄化されたのかと思っていたら、菅前首相による会員候補6名の任命拒否事件があった。ごく最近になって日本学術会議は漸く、軍事と民生双方で研究できる「デュアル・ユース(両用)」の科学技術研究を容認する方針を打ち出したが、時すでに遅し。軍事科学技術は諸外国に比べてすでに半世紀遅れた。
 共産党が特に原子力利用への反対に力を入れてきたのは、反対が中国、ロシアに対する協力に通じたからだ。原子力に関する規制については、あらゆる面に亘って厳格さを要求してきた。そうした運動の結果、福島第一原発のような事故が起きると、原子炉等規制法は改定され、規制がいたずらに厳しくされた。運転期間の上限を原則40年に定め、規制委員会が認めれば1回に限り最長で20年延長できることになった。しかし福島原発の事故で上限を40年間に決める理由は何なのか。規制でいたずらに押さえつける態度にしか見えない。
 米国は稼働開始から40年以降は、安全審査をクリアしさえすれば20年以内の延長が何度でも可能だ。英国・フランスには運転期間の制限はなく、10年毎の安全審査を実施することになっている。日本がこれからやるべきは最長60年の運転期間上限を撤廃する法改正だ。
 今年6月時点で、フランスの原子力は全電源の約62%を占めている。米国は15.8%(7月)。日本は3.1%だ(国際エネルギー機関データ)。これからの日本は、原子力エネルギーの割合を圧倒的に増やして主力電源を安定させ、電気料金も世界最低レベルを目指していってもらいたい。
(令和4年11月16日付静岡新聞『論壇』より転載)