「新三文書で蘇る日本の防衛」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 政府が「防衛三文書」の改訂を閣議決定したことで日本は国際社会において、漸く成人の立場を獲得したのではないか。これまでの日本の憲法解釈では法的に何もできない、お金しか出さないという縮み志向だった。撃たれても撃ち返すことが出来ないから“国防”という概念はないも同然だった。最近の国際情勢を見ると、少なくとも2発目を撃たせない反撃能力を持たなければ、わが国の存在は成り立たない。このような見方は、憲法解釈の面でも決して新しいものではない。「わが国土に対し、誘導弾などによる攻撃が行われた場合、座して自滅を待つべしというのが憲法の趣旨だとは考えられない」と、遡ること昭和31年に鳩山一郎首相が政府の統一見解を示している。
 当初「敵基地攻撃能力」が周辺国に脅威を与えるのではないかとビクビクする向きもあった。しかし現実には、相手の攻撃に対し自動的に反撃する弾(タマ)はすでに出来ているのである。敵が日本に向かって一撃すると、その弾を狙って自動的に反撃する。今後は日本の反撃弾が敵の弾を狙う場合もあれば、直接敵基地に向かう場合も出てくることになる。 
 今後、日本は少なくとも軍備の物量という面では、列強入りを果たすことになるだろう。並みの力すらなく、下回りの雑用しかできないというのでは、平和への貢献はできない。
 日本の軍事費は三木武夫内閣の時からGDP比1%を目途として積み重ねてきた。中国はこの30年間で軍事費を43倍に増やしているのに、である。ロシアのウクライナ侵攻に対抗するため、ドイツはGDP比1%を2%に引き上げた。これに倣って日本の軍事力もGDP比2%を目途とする決定がなされた。この結果、防衛費は23~27年度の5年間で約43兆円に増加することになる。これはこれまでの計画の約1.5倍に相当する。最後の27年度までには、公共インフラや科学技術研究など国防に資する周辺予算を含めてGDP比で2%に近づける。
 故安倍首相は新安保関連法制を成立させ、日米安保条約に活を入れた。今回の三文書は日米安保条約をさらに有効化することに意味がある。残るは憲法を改正し、名実ともに国防意識を活発化することである。
 岸田文雄首相が宏池会の真っただ中で育った人であったため、岸田氏の防衛三文書改訂への熱意を疑っていた。しかし決定に至るまでの軌跡をたどると真剣さが見て取れる。
 朝日新聞の佐藤武嗣編集委員は12月17日付の論説で、防衛省幹部が「相手のミサイル発射前でも攻撃着手を確認すれば、相手領土を攻撃できる」としていることに触れて、「着手の見極めは困難で、先制攻撃と見なされれば国際法違反となる」と述べている。しかし最初の1発を認識して同時に反撃する弾が現実に出現しているのである。向こうの弾が着弾するまでこちらからは撃てない、などという理屈は成り立たない。
(令和4年12月28日付静岡新聞『論壇』より転載)