「改憲を急げ」
―日本有事を想定した政策実行に猶予はない―

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会長・政治評論家 屋山太郎

 2023(令和5)年の政治を今のダラリとした雰囲気から解放してもらいたい。故安倍晋三氏は無理押ししないよう、政治改革をゆっくりと、だが確実に進めてきた。皮肉なことにそのゆったりとした安倍政治がテロによって断ち切られると、これまで改革を急いできた勢力と作業をサボろうとしてきた勢力にはっきりと二分された。岸田文雄首相はどちらかと言えばサボろうとする側に回ろうとしているのではないかという疑念が拭えない。防衛三文書改訂と原発再稼働の決定には大賛成だが、どちらの決定も議論が始まったのは、岸田内閣より前の時代からだ。
 これから本丸となる政治課題は「憲法改正」をおいて他にはなかろう。その憲法は憲法審査会で日本維新の会、国民民主が能弁を振るい、立憲民主党が無意味な弁舌によって時間を稼いでいるだけのようだ。黙視していれば22年の憲法審査会と同様になることは必定だ。
 岸田首相は22年7月の参院選で勝利し、その後25年の参院選まで選挙がない「黄金の3年間」を手に入れた。憲法審査会も今年開こうが来年開こうが自由である。いっそのこと首相は大筋を描いた上で投票に持ち込んだらどうか。国民投票の手順は、すでに安倍内閣の1年目に完成している。
 憲法改正に向けて国民の9条2項に対する関心はかなり高い。これを考慮して安倍氏は9条1・2項はそのまま置いておきながら、同条に「自衛隊」を併記する案を出した。非武装論者と同居しようということだが、こういう配慮は逆に再び国民を迷走させるのではないか。これでは国民が一体となって国を守ろう、という高揚した空気は生み出せない。
 私が中学1年生の時、空襲で自宅一帯を丸焼けにされたが、被害は国民が一体として受けたものだという認識があったから早々に諦めがついた。こういう感覚を運命共同体というのだろう。一方、戦後の「非武装・中立論」全盛時代の雰囲気はどうだったか。誰もが互いに非武装で「安全だよなあ」というような雰囲気は全くなかった。米国とソ連が張り合っていたからロシアは日本に手を出さなかっただけだ。終戦に至っているにも拘らず北方領土を獲りに来たり、北海道を半分寄こせと言ったりした事実もある。日本の平和は国際情勢の偶然によって保たれていただけだ。
 22年末の読売新聞の全国世論調査によると、防衛費を今後、総額40兆円を超える規模にまで増やす方向としていることについて、「賛成」が51%と過半数を占めた。原子力発電の運転期間の延長についても、やはり賛成が51%を占めた。同調査による岸田内閣支持率は39%で、不支持は52%と高かった。政策に対する支持率が高い一方で、内閣支持率が40%を切るのはありふれた傾向ではない。岸田内閣の政策実行のスピード感にも不満の一因があるのではないか。
 岸田内閣の時代に日本有事が起こるかもしれない。一刻も早く改憲すべきだ。
(令和5年1月4日付静岡新聞『論壇』より転載)