日本のエネルギー安全保障を左右する革新的な原子炉開発

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政策提言委員・経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員 藤谷昌敏

 2022年2月に始まったロシアのウクライナ侵攻は、世界規模でのエネルギー危機を引き起こした。今、世界は、気候変動の原因となるCO2を減らす脱炭素と必要なエネルギーを合理的な価格で継続的に確保するエネルギー安全保障をいかに両立させるかが大きな課題となっている。
 エネルギー安全保障の観点からも、日本は官民あげて、エネルギー自給率を向上させなければならない。ちなみに2021年の日本のエネルギー自給率は約11%にとどまっており、米国の106%など諸外国に比べて圧倒的に自給率が低い。
 経済産業省によると、2021年の時点で日本は石油の輸入量の4%、天然ガスの9%、石炭の11%をロシアに依存していた。これは、欧州諸国の中でもドイツが2020年に石油34%、天然ガス43%、石炭48%をロシアに依存していたことと比べると低い数値だが、日本のエネルギー自給率の低さを考えれば、ウクライナ侵攻の影響は決して小さくないと言える。
 このような中、日本国内では近年の異常天候の影響で異例の暑さが続き、電力需給が恒常的にひっ迫するようになった。こうした事態を受けて、昨年末、日本政府は原発の再稼働の追加及び、原発の新規建設も検討することを明らかにした。
 原発の再稼働と新規建設は、脱炭素社会の実現とエネルギーの自給という2つの課題の両方を同時に解決する手段だが、原子炉の安全性という問題がどうしても付きまとうことも事実だ。今、政府は、こうした問題を解決するために効率性や安全性を向上させた革新原子炉を開発しようとしているが、それはどのようなものなのだろうか。
 
日本のエネルギー安全保障は極めて困難
 放送大学の白鳥潤一郎准教授は、「三重苦に直面する日本のエネルギー安全保障」と称する論稿の中で、「エネルギー安全保障を考える上で、日本の置かれた現状は極めて困難である」として、3つの問題点を挙げる。
(第1の問題点)
 日本はエネルギー資源の大半を輸入にたよる「資源小国」である。少なくとも当面の間、大きく状況が変わることはないだろうし、再生可能エネルギーが主役となる時代においても、残念ながら日本が「資源小国」であり続ける可能性は極めて高い。
(第2の問題点)
 気候変動対策に伴う「エネルギー・シフト」が具体化する中で、日本でもその困難は徐々に表面化しつつある。原子力発電所の再稼働が順調に進まない状況が続く中で、再生可能エネルギーの割合を高めつつ、電力の安定供給を確保する道は狭く険しい。また、エネルギーをめぐる問題は電力だけではないことも確認しておくべきだろう。
(第3の問題点)
 ロシアのウクライナ侵攻への対応である。エネルギー資源の供給を「武器」とする姿勢を鮮明にしたロシアが、信頼できる安定的な供給者でないことは明らかであり、中長期的にロシアへの依存度を下げることに正面から反対する声は少ないだろう。それでも、日本が取り得る選択肢は限られており、綱渡りが続くと予想される。
 
どのような革新原子炉が研究されているのか
 白鳥氏が提起する問題点を解決する手段として考えられるのが、稼働中に二酸化炭素(CO2)がほとんど出ない原子力発電である。経産省が主導する革新炉ワーキンググループでは、革新的原子炉として6つの原子炉を挙げている。
 ①第3世代軽水炉(ABWR)、②小型モジュール炉(SMR)、③高速炉 、④高温ガス炉、⑤溶融塩炉 、⑥核融合炉 
 現在の軽水炉の致命的な欠陥は、福島第一原発事故で発生したように電源を喪失すると冷却できなくなり、燃料棒が過熱して炉心溶融(メルトダウン)が起こることだ。これを防ぐために緊急炉心冷却装置(ECCS)があるが、全電源が失われると冷却水が循環しなくなり、数時間で「メルトダウン」が起こる。そうした事故を防ぎ、安全性を高めたのが革新原子炉だ。
 ①では、東電の柏崎刈羽6・7号、北陸電力志賀2号、中部電力浜岡5号が稼働中の第3世代軽水炉(ABWR)で、従来の沸騰水型(BWR)に比べて、外部からの注水だけでなく、原子炉内部の再循環ポンプで冷却できるようになっている。
 ②の小型モジュール炉(SMR)は、「受動的安全性」を特徴としており、出力10万キロワット程度と小さいため、電源を喪失した場合も、大型軽水炉ほど大きな熱が出ないので自然循環で冷却できる。しかし、出力が小さいので、大量生産しないと規模の経済が生かせない。
 ③の高速炉(FR)は、高速中性子による核分裂反応によってエネルギーを発生させる。ウランの有効活用等の利点があり、今後、軽水炉型原子炉に順次、置き換わっていくものと期待されており、置き換えが完了すれば約2000年に渡ってウラン資源の心配が要らなくなるとされる。
 ④の高温ガス炉は、炉心の主な構成材に黒鉛を中心としたセラミック材料を用い、核分裂で生じた熱を外に取り出すための冷却材にヘリウムガスを用いた原子炉だ。何等かの破損事故が起きても、炉心で発生する熱は自然に除去され、安全な原子炉とされる。
 ⑤の溶融塩炉では、1000kW級の小型トリウム原発の場合、燃料である700℃に溶けた溶融塩の液体トリウム自体が自然循環し空冷可能であるため、冷却機能喪失時も受動的安全を保つ。軽水炉等のような燃料棒自体が存在しないため、冷却機能喪失時の燃料棒溶解、燃料棒と冷却水との反応による水素発生は起こりえない。
 ⑥の核融合炉は、原子核融合反応を利用した原子炉の一種であり、「人口太陽」にたとえられる。
 
エネルギー安全保障と脱炭素を両立させる原発再稼働と革新原子炉
 政府は2030年度までに、温暖化ガスの排出量を13年度比で46%減らし、さらに50%減をめざすとしている。原発再稼働は、電力需給逼迫に対応し、液化天然ガス(LNG)削減にもつながる。経済産業省の試算では、原発が1基再稼働すれば、LNGが約100万トン節約でき、再稼働済みの10基と追加で再稼働を目指す7基の計17基全てが再稼働すれば、年約1兆6千億円の歳費削減となる。火力発電所の稼働数を減少することで、二酸化炭素(CO2)の排出量を抑制することにもつながる。
 今後、高い安全性を持つ次世代革新原子炉の開発や建設を推進していけば、世界的課題であるエネルギー安全保障と脱炭素にも日本は大きく貢献できるだろう。