天邪鬼と軽妙洒脱

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)には、日本中が惹きつけられ興奮した。選手のグッズを購入するために徹夜する人も多数いた。強化試合から本番まで京セラドーム、バンテリンドーム、東京ドームは満員になった。今では地上波での野球中継は殆ど無くなっている。ところがWBCの地上波放送の視聴率は軒並み40%を超えた。理由は簡単だ。傑出したスターがいたからだ。
 メジャーリーガーのダルビッシュや吉田正尚も参加し、大活躍した。しかし何と言っても大谷翔平である。昨年のホームラン王・西武の山川穂高が「野球を辞めたい。格が違いすぎる」と嘆くほど、大谷のバッティングは凄かった。投げては160キロを超す速球、大打者トラウトから三振を奪ったスライダー。投げても、打っても、走っても、メジャーでもずば抜けた存在の大谷の人間離れした活躍には、目を瞠(みは)るしかなかった。
 侍ジャパンが優勝を決めた後、メジャーで通算541本塁打を放った元レッドソックスのオルティスが「真剣な質問だ。どの惑星から来たんだい?」と大谷に質問したのも頷ける話なのだ。
 この大谷が日本での試合で勝った後のインタビューで、「今日の応援はどうでしたか?」と問われ、「凄い応援でした。ありがとうございます」などと言うのかと思っていたら、「まだまだです」「まあまあです」と笑いながら答えた。大観衆を前になかなか言えない言葉だったが、大観衆も大喜びだった。なかなかの天邪鬼風なのだが、それが嫌みにならない。
 WBCでの優勝決定後、最も活躍した選手に贈られるMVPが大谷に決まってトロフィーを受け取っていたが、「僕ですか!」などととってつけたように驚く様子は微塵もなく、当然のように受け取っていた。この別格さが清々しい。
 まったく話を変える。私の最近の土日の楽しみは競馬中継の観戦だ。とは言っても馬券は買ったことがない。BS11で正午から放送している。土曜は午後2時半まで、日曜は午後3時まで。土曜は3時からテレビ東京、日曜はフジテレビが中継する。BS11は午後4時から放映を再開する。暇な時は殆ど観ている。競走馬として仕上げられたサラブレッドの肉体は美しい。走る姿はさらに美しい。馬の凄いところは、1,600メートル、2,000メートル走っても息がまったく上がっていないことだ。
 この競馬界にも大スターがいる。誰でも知っている武豊だ。通算4,400勝を超えている。中央競馬だけでこの勝ち数はただ1人である。馬券を買ってもいない私も武豊が乗ったレースは懸命に応援してしまう。応援してしまう魅力があるのだ。この武豊がインタビューを受けた際の答えがいつも軽妙洒脱で、気負いがまったく無い。先日も大阪杯というG1レースでジャックドールという馬に乗って勝利した。勝利ジョッキーインタビューを終え、カメラマンが「サインをお願いします」と言うとフフッと笑いながらレンズに、名前ではなく、片仮名で「サイン」と書いたのだ。このおとぼけが武豊なのだ。
 突き抜けた人は魅力的だ。