民進党の蓮舫氏にまつわる国籍問題がいま一部で話題になっているので、日本における帰化者の状況を簡単に整理しておきたい。
1952年から2015年まで、帰化申請をして日本国籍を取得した帰化者の数は約53万人である。その多くは日本帝国の時代に、朝鮮や台湾から当時の「内地」に流入し、住み着いた一世とその子孫たちで、一世の多くは1930年代以前に日本にやってきているから、日本との関わりは古い。
ときに耳にする「特別永住」の外国人とは、同じ経緯で日本に住みながらも、外国籍を維持している人びとのことで、2015年末現在、韓国・朝鮮籍をもつ特別永住者が35万人弱であるのに対し、韓国・朝鮮籍からの帰化者(ニューカマーの数字を含む)は36万人ほどで、自然増を含めて考えると、特別永住者系の人々のうち、日本人として生きている人と韓国人や朝鮮人として生きている人の数はほぼ互角ということになるだろう。
帰化者の数は1992年以後、年間1万人から、一時は1万5000人を超えたが、2013年以後、年間1万人を割るようになる。なぜか。1985年以後、特別永住者として誕生する者が急速に減少したことに加え、増加していた中国籍からの帰化申請が減少したためであろう。
特別永住者といっても、大部分は韓国・朝鮮籍であるから、以下、それを基準に記すと、重要なのは1984年の国籍法改正で(翌年から施行)、父母のいずれかが日本国籍をもつ者の子には、日本国籍が付与されるようになる。特別永住者の大部分が日本人と結婚することは比較的よく知られているが、その間に生れた子のうち外国籍を継承する例が少ないのである。つまり、国籍法改正を機に、特別永住者の人口ピラミッドにおける出生者の数が著しく減少したのである。特別永住者は青年期の子どもの行く末を考えて帰化を決意する場合が多かったが、彼らは今や高齢化し、帰化を考える青年世代が少なくなっているのである。
それでも韓国・朝鮮籍からの帰化者は年間5000人ほどを数えるから、存外多いのではないかという印象をもる者がいるかもしれない。しかし、この数字には日本人を配偶者とするニューカマーの韓国人たちも含まれる。特別永住者であれ、その他の外国出身者であれ、日本人との結婚は帰化の重要な動機となる。
一方、中華民国籍を含む中国籍からの帰化者は1999年に5000人代を記録したが、この5年ほどは年間2000~3000人の水準である。2011年の東日本大震災もこの数字にある程度の影響を与えたようであるが、より重要なのは、近年の日中の政治的緊張関係であろう。
ところで同じ韓国・朝鮮籍をもつ特別永住者でも、一方に、日本に帰化をする者がいれば、他方には、帰化しないまま暮らす者がいる。ある人から「帰化をした人のほうが親日なのか」と訊かれたことがある。おおまかにいえば、そうだろう。特別永住者の多くは今や本国にたいする帰属意識に欠けるとともに、自分がこれからもこの日本の地に住み続けるのだということを知っている。それなのに、約半数の人がいまだに韓国・朝鮮籍を維持しているとしたら、そこに日本に対する反発や疑念を推測しておかしなことはない。
しかし単純に、面倒臭いから帰化手続きをしないのだという者もいる。自分の意志でというよりは、幼少期に親の意志で帰化した者もいる。近年の日本では、帰化の勧めを外国人に対する人権無視と考えるムードもある。そんなムードが帰化への障害になっている部分もあるだろう。本国に対する帰属意識なぞとっくの昔になくしているのに、それでも帰化なぞしないで、外国人として生きるのが多文化共生の時代に期待される在日像なのだ。多くの者は帰化しなくても日本での生活に不便がないから現状維持を継続しているのだろう。
蓮舫氏の父親は台湾出身者であり、特別永住者系の人間であったと考えられるが、台湾系とコリア系帰化者の間にはなにか違いがあるのだろうか。思いつくのは、台湾系のほうが帰化率ははるかに高いが、台湾系日本人のほうが帰化後も故国とのつながりを維持し、エスニックなライフスタイルを維持している者が多いということである。
いま民進党には蓮舫氏以外にも帰化した国会議員がいるが、もし彼らにインタビューする機会があるなら、あなたはどのような日本人として生きてきたのですかと問いたい。こんな質問を多分彼らは受けたことがないに違いない。そんな意地悪な質問はすべきではないという意見もあるだろう。
しかし、これは意地悪なんかではない。世襲の日本人とは違って、帰化者にはなんらかの経緯や理由があって日本人になったはずだ。それを語ることによって、日本人とはなにかを考える契機を政治家が提供してなにがおかしい。「アゴラ」で八幡和郎氏は蓮舫氏にまつわる「二重国籍疑惑」を問うていたが、それに応えることだってまことに常識的なことだ。