「本当の政界再編を待つ」

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会長・政治評論家 屋山太郎

 総選挙が間近いとみて、総合雑誌は総選挙予想を書き連ねているが、私の予想はそのいずれとも異なる。公明党の石井幹事長は「東京の公認をしない」と自民党に言われたことに憤って、他の部分は今まで通りいきますから」などと、自公連立継続の姿勢を守ろうとしている。共産党は「党首公選」の提案者を除名し、党勢が下がっても改善策が見つからぬ風である。あたかも他党が理解しないのが分からないと言わんばかりだ。
 次の総選挙で、公、共両党が分解するか、公明党が連立を離れるかしか良い方法はないではないか。
 ヨーロッパを見てもらいたい。ロシアがウクライナに攻め込むという暴挙を見て、新政権の組み合わせはガラリと変わった。フランスは再生党、民主グループ、地平線など新顔が政権を握り、ドイツは、社会民主党、緑の党、自由民主党が政権を取った。長い間政権を握ってきたキリスト教民主党、キリスト教社会同盟は下野した。ロシアから輸入していた液化天然ガスは55%と言われていたが、それがゼロ。よくぞこんな国家改造が断行できるものだ。これが行えたのは選挙で国民の声を聞いたからではない。与党の判断で一挙に行われた変化なのだ。イタリア新政権は、同盟、フォルツァ・イタリアから成る。これも新顔ばかりだ。
 各国の総選挙はどこも十に近い政党が選挙に当たって結果が出てから5、6政権が申し出て成立する。どうやって主要政策が生み出されるのか不思議だが、結果が悪ければ政権交代か解散に向かう。どんな党でも平等な政権参加資格がある。
 実は日本の最大欠点は、どんな政党でも政権に参加できない。例えば、自民党から見ると共産党、公明党を“正規”に仲間に誘うことはできない。というのも、両党とも正々堂々とした“民主主義的政党”ではないからだ。共産党が戦後政党を結成した時に、「共産党は民主主義政党ではない」という反対論が出た。それは党内運営を「民主集中制」という民主主義手法ではない方法でやっているからだ。進駐軍の許可が出たということだが、進駐軍の見識がどの程度のものなのか。
 自民党は公明党との連立にも戸惑った。自民党の大部分は、公明党は政党ではないと認識したからだが、それが小沢一郎氏の一計によって、自公連立を成立させてしまった。当時の政府は民主党の少数派転落によって、過半数に達しなかった。かといって、保守正統派は政党でもない公明党と連立するのを邪道とした。そこで民主党を崩して、自由党と公明党の組んだ集団との連合を思いつく。自由・公明連合と一緒ではなく、まず自民党と小沢氏の自由党とが自自連立を作り、公明党は自由党にくっついてきたという形をとった。自民党には傷がつかないとの考え方だ。こういう細工の場面はあまり表立たなかったが、宗教政党は正規の政党とはヨーロッパでは見做されない。まず選挙民が宗教政党なるものを許さないからだ。
 日本で政権再編が起きない原因は、共産、公明のような毛色の変わった政党が存在するからだ。社会党はかつての社共共闘が染みついて独立性を失った。イタリア共産党の絶頂期では党員数33%、もう少しで第1党になるところだったが、庶民は「共産党よりは汚職の方がまし」と考えている風情があった。共産党を保守の毒消しと見做していたのである。ヨーロッパの共産党色が一斉に変化したのが「ユーロコミュニズム」の風潮である。ヨーロッパの共産党の悩みは独善、独裁に戻るのではないかと恐れられたことである。
 何しろ1956年、ハンガリーの民主化要求をソ連はソ連軍を使って鎮圧した。1968年、チェコの民主化要求を強引に潰した。このため欧州共産党が一致して改善運動に乗り出した理由は、「われわれの共産党はソ連とは違う」点を強調し出したことだ。このユーロコミュニズムの運動は90年代にソ連共産党が崩れそうになると、一気に成熟し、どの国も党首専制、民主集中制を廃止することになった。必然的に民主的手続きを踏んでいるなら誰でも立候補できるし、政党も結成できることになった。いま欧州では7、8党で連立交渉が行われているが、責任者が全責任を負う。日本共産党の一党独裁ではこのことを誰か保証するのか。
 自・公両党さえ消えれば、どんな連立政権ができても日本は安泰である。公明党は「憲法改正、やりますよ」と言う。しかしよく聞いてみると「非武装、中立」「憲法9条死守」に落ち着く。こんなインチキ政党に20年も付き合わされた自民党は腐っている。自民党も含めて、政界再編が待たれる所以だ。