ロシアで5月9日に例年のごとく第二次世界大戦での対独戦勝記念式典が行なわれた。ナチスドイツとの戦いに勝利したことは、旧ソ連以来ロシアの最大の自慢、誇りとなってきた。確かに当時スターリン率いるソ連は、2千万人という犠牲を払ってナチスドイツとの戦いに勝利した。ただこれだけの犠牲者を出したのには、スターリンの責任も大きい。
スターリンは、ただただヒトラー・ドイツと戦ったわけではない。1939年8月にはヒトラー・ドイツと独ソ不可侵条約を締結し、ポーランドやバルト三国を分割するという秘密議定書まで結んでいた。この条約もあってヒトラー・ドイツは翌9月にポーランドに侵略し、これが第二次世界大戦の発端となった。
この経緯を見れば、旧ソ連をナチスドイツと正面から戦った国として、全面的な評価を出来ないことは明白だ。ところが当時、米英などの連合国側もソ連を反ファシズム陣営に取り込もうとしていたため、ソ連が高く評価され過ぎてきた。スターリン時代もその後のソ連も共産党一党独裁のもとで国民の自由や人権が踏みにじられてきた。また我が国の北方領土を奪い、アフガニスタン侵略を行うなど、その存在が平和や進歩に逆流する覇権国家であったことは明白だ。
問題は、共産党の一党独裁体制が崩壊した後も、プーチンによってその路線が復活し、引き継がれてきたことだ。プーチンがまるで皇帝のように振る舞う滑稽な姿は、共産党時代よりも独裁度は強まったように思える。
プーチンは戦勝記念日の演説で、「祖国に対する本物の戦争が再び行われている「（西側の）目標はわが国の崩壊と世界の安全保障、国際法の破壊だ」と語り、事実無根のウソによってウクライナへの侵略を「祖国防衛」のためだと正当化した。
今プーチンは、かつてのヒトラーの立場になっているのだ。ウクライナ侵略を正当化し、無差別爆撃などによって高齢者、子どもなど非戦闘員を多数殺戮している。国際刑事裁判所から「ウクライナの子ども連れ去り」という戦争犯罪で逮捕状まで出されている。ロシア国内では、徴兵や反戦の取り締まりが厳しくなっている。流出した米文書によれば、ウクライナでの戦争におけるロシアの戦死者は35,500～43,000人、負傷者は154,000～180,000人と推定されている。若者の命を軽んじる非人道的な行為は許されない。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、5月9日のビデオ演説で、プーチン政権に対し、「78年前の侵略者と同様、現在の侵略者が敗れるのも時間の問題だ」と述べ、ロシアが行なっていることは、「ナチスドイツと同じ隷属と破壊だ」と批判している。プーチン氏は、ウクライナをネオナチズムだと決めつけ、侵略の正当化を図ってきた。ネオナチズムとは、ナチス（国家社会主義ドイツ労働者党）が行なったユダヤ人大量虐殺や侵略戦争を正当化する勢力のことだ。それは現在のプーチンである。侵略者は敗北する。それこそがナチスドイツに勝った教訓だ。この原点を忘れてはならない。
