三十年間も不景気という日本の地獄は終わった。今後は二十〜三十年にわたって継続的な好景気がもたらされるだろう。株や証券について詳しいわけではない。国際的地位の激変によって日本を取り巻く環境が様変わりするからだ。
この激変は米中関係と密接に絡んでいる。クリントン、ブッシュ(息子)、オバマの各米大統領が米中関係を劇的に変えたのは一九九〇〜二〇一〇年代である。二〇〇一年には中国を世界貿易機関(WTO)に加盟させ、さながら西側の一員のように扱った。加盟に当たって中国は既存の世界規制に様々な文句をつけ〝自由化〞させた。この自由化の損を全部被ったのが日本である。象徴的なのが半導体で、当初、日本の世界シェアは五〇%といわれた。石原慎太郎氏は「新しい資源」と呼んで、「これさえあれば日本は永遠に豊かだ」と歓喜した。ところが米政府はこの〝資源〞を中国圏に放出しろという。結局、現在は米国や韓国勢がシェアを占めるが、半導体は新兵器の中軸をなす部品である。いま米国は日、欧州連合(EU)を集めて半導体を集約し直している。中国はEV(電気自動車)の増産に懸命だが、半導体不足でスピードが上がらない。
半導体に象徴されるように、日本のあらゆる製品が売れなくなった。三十年間も売れなかった理由は〝不当な円高〞である。何を売ろうとしても円高で売れない。それが最近、百円台から百五十円台に近い円安となった。米国の円高固定は基本政策というべきもので、外交政策の転換がなければあり得ない円安政策だった。
オバマ氏まで米国の対中政策は、西側の仲間に入れて自由世界の中で自由を味わわせるというものだった。この方式は中国を軍事強国化し、技術革新を進め、いずれ米国が負けに至る路線である。
その大間違いを安倍晋三総理がトランプ大統領に説いたのではないか。安倍氏が公に「対中政策を変えろ」と説明した証拠はないが、その証拠というべき数字は歴然と残っている。中国の対米輸出は二〇〇〇年の八%から一六年のトランプ大統領の直前まで二〇%に急伸していたが、トランプ時代にストップし、バイデン時代も横ばいが続く。代わりにメキシコ、ASEAN、カナダが台頭し、中国の回復余地はない。要するに、半導体や資源をはじめ輸入のあらゆる面で中国を切ったのである。
一方で日本の株式は三十三年ぶりに日経平均株価が高値をつけた。この三十年、金をどこに使ったらいいかと悩んでいた日本の経営者は文句を言わなくなった。投資先はいくらでもあるし、不当な規制で割を食う心配もなくなったからだ。中国がWTOに加盟した二〇〇一年時点で日本の三割だった国内総生産(GDP)は、二〇二一年には日本の三倍になった。この現象は米国が中国をどう扱うかの一点で生じたのである。日本は米国の言いなりになり過ぎたのを反省しなければならない。
米国が日米安保にただ乗りしている日本を度外視して、対中政策を変更しようと思ったのは仕方がない。しかし中国の生き方は日本人や米国人とは基本的に違う。日米の間で裏切りがあれば絶縁だが、中国人は恥という概念を知らない。だますことが悪いと思わない。日常生活もそうだが、外交も同じだ。こういう連中とは付き合えない。
それを物語るエピソードがある。最近、欧州諸国駐在の中国大使館に当事国の政治家が寄り付かないというのだ。無理な頼みごとをされるか、ウソをつかれるだけだから、寄り付くと損をするとの噂が出回っているという。実はこういう噂話は外交に打撃をもたらす。中国が西側攻略に懸命だった頃、研究所などに「千人計画」という潜入工作が行われた。その研究所の成果や技術作を盗むというもので、中国自身にはそれほどの技術力はない。泥棒国家の限界だ。
(「正論」令和5年9月号より転載)