2015年5月に設立され、参院選を最後に解散したSEALDs(シールズ)という団体がある。この団体の集会に出てきた山口二郎法政大学教授は「安倍に言いたい。お前は人間じゃない。叩き斬ってやる!」と怒鳴っていた。山口氏の前職は北海道大学の知識人でありヤクザではない。このセリフには心底驚いたが、少なくともインテリ、言論人の言うセリフではないだろう。こういう芯のない団体が出現したのは、左翼勢力全体の地盤沈下を物語るものではないか。
驚いてシールズのリーダー達の発言を集めてみる。「安倍は一言でいうと、バカなんじゃないかなと思っている」「どうでも良いなら首相をやめろ。バカか、お前は」(2015年8月23日、連合主催のデモ、リーダーの奥田愛基氏)「もし中国や韓国が攻めてくるなら、僕が九州の玄関口で、とことん話して、酒を飲んで、遊んでくい止めます。それが本当の抑止力でしょう」(2015年8月20日、シールズ、福岡の大学生)「今の民主主義は民意が政治に伝わっていないと感じます。多数決で政治が決まるなんて民主主義ではないです」(2015年8月20日、専修大学4年生のハンスト実行人、元木大介氏)。
三つの発言を載せたのは第1がただの反権力。第2が憲法9条信奉者。第3は国会の多数決は認めない野蛮人ということか。いずれにしても左翼の発想だとわかるが、言論で何かを訴えるには言葉に作法というものが必要だろう。言語に品格がなければ説得力さえ持ち得ないと知るべきだ。
このシールズは陰では志位和夫氏をもじって「志位るず」と呼ばれていたが、担いでいる主役はまぎれもなく共産党だ。共産党が今回の参院選で岡田民進党代表を誑し込んだのは共産党特有の「一点共闘」作戦というものだ。米ソ冷戦が始まると共にソ連が東欧各国の共産党に指示した作戦だ。各国共産党は“左翼政党”に狙いをつけて連合政権を作り、それができるや否や、共産党の一党独裁に持ち込んだ。ポーランド、ハンガリー、ルーマニアはこの手でソ連の同盟国に組み込まれた。
冷戦終了後、共産党は分派が多発して、多種多様の団体を生んだ。その延長線上に生まれたのがシールズと言えるのではないか。シールズの支持母体として挙げられるのは共産党、民進党、社民党、連合、民青(民主主義青年同盟)と、朝日、毎日、TBS、テレ朝などの放送媒体だろう。
さながら、左翼陣営のオンパレードだが、左翼の新たなシンボルになるほどの発信力はなかった。シンボルが解散宣言をしたのは、左翼が合体して再飛躍するほどのエネルギーがないことを証明している。前回の参院選では共産党は比例票を激減させた。都知事候補の鳥越俊太郎氏は野党統一候補なのに、無様な結果に終わった。日本の左翼陣営は百家争鳴のあと全般的な沈下現象を起こしているように見える。
(平成28年9月7日付静岡新聞『論壇』より転載)