中国の不景気はまず不動産業から発している。そのケリがつかないまま数年経てば、いつ財政が破綻してもおかしくない。これまで中国政府は何度か「破綻しない」と強調してきたが、景気立て直しの具体的な政策は示さなかった。
逆に、中国の不動産危機は膨張しつつあるのではないか。中国の不動産開発大手・中国恒大集団が危ないという噂は二、三年前から囁かれていた。恒大集団に融資しているとされる銀行には窓側に現ナマが並べてあるという。いつでも払い出せますよという姿勢を示しているのだ。
河北省滄州市の地方銀行「滄州銀行」は、恒大が破綻すれば預金が引き出せなくなるとの不安が広がり、預金者が店舗に殺到したそうだ。SNSで、同行が恒大に三十四億元(約六百九十億円)を融資しているとの偽情報が拡散したからだという。同じく不動産大手の碧桂園でも、十月に入ってデフォルトの危機が囁かれている。中国不況の始まりは不動産業が活発なばかりに、集合住宅を建てまくったことにある。
住宅建設ラッシュが起こり、現在、中国は三十四億戸の戸建て、あるいはマンションが建っているという。人口が十四億だから、仮に一人が一戸の家に収まっても二十億戸分も余る計算だ。日本だと金利付きの借金を何軒も持っていられないから、不良債権付き不動産など損を承知で叩き売ってしまう。こういう大不景気をくぐり抜けてこそ、不動産バブルを切り抜けることができる。しかし、中国の場合、国内で始末がつかないから、次に外国を引きずり込む戦略を立てた。
資本主義社会なら、国内でダメなら同じ手を外国に使う手口は許されるのだが、中国の特殊なシステムでは許されない。中国の土地は全て国有である。自治体も自らの土地というものは持っていない。地方に住宅の欲しい人があれば、十組とか百区に分けて計画を立て、地方政府に申し込む。地方がそれには百坪一千万円が必要だと判定すると、中央政府と交渉して中央に一千万円の金を払い百坪を取得する。と言っても百坪はあくまで中央政府のものである。
地方政府が得た財政収入を勝手に使うことは許されない。住宅を何万戸も抱える地方政府であっても、そのうち半分でも粉飾決算するわけにはいかないのである。
借金で困った地方政府は「家一軒持つ権限のある人に、もう一軒持つことを許可する」などという許可を出すのである。実はこう書いた「書付」を誰も見たわけではないが、こっそり行われていなければ、三十四億戸もの家が建つわけがない。こういう国家規律の無視は国家崩壊に向かう。いずれ共産主義体制は崩壊するだろうが、失敗を取り消せないというプリンシプルを掲げている限り、社会の反発は収まりきらないだろう。
十年ほど前、習近平国家主席は、「一帯一路」なる世界計画を発表した。世界の陸路や海路を全部活性化して、中国と結ぶと言ったのである。ちょうどその頃、中国国内で行われた土木工事が行き詰まったため、外国と連携して世界的規模で土木計画を起こそうという趣旨だったらしい。実態は土木工事費の大半を相手国に出させて自分が利用するというものだった。スリランカのハンバントタ港は、政府が金を払えないというので中国に九十九年の租借契約を結ばされた。資本主義社会ではこういうのを〝泥棒〞という。今、イタリアも〝高速道路〞の着工をめぐって着手を渋っている。
中国にとって「一帯一路」事業は建設業の再建事業なのだが、必然的に隣国を巻き込み、中小国をのみ込み、やがてはイタリアをも建設不振に巻き込みかねない。
実は、こんなことは最初から見通せたことだ。中国の陰謀に気づかなければ、世界中にホコリが立つところだった。
(「正論」令和5年12月号より転載)