遠のく北方領土問題の解決

.

政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 今年の2月26日付産経新聞の主張に、「平和条約交渉を打ち切れ 共同経済活動は即刻中止せよ」という一文が掲載された。そこには「日本固有の領土である北方領土はロシアに不法占拠されたままだ。そのうえウクライナも侵略したプーチン政権と、まともな平和条約交渉ができるわけもない。打ち切りが必要だ。北方領土をめぐる日露共同経済活動を即刻中止すべきなのはもちろんだ」とある。賛成だ。

 鈴木宗男参院議員が10月にロシアを訪問した。同氏はロシアのウクライナ侵略について、ウクライナにも責任があるという独自の立場だ。同氏の訪問は中断しているビザなし交流や墓参、日本漁業の安全操業を要請することにあったようだが、その際、「ロシアの勝利を確信している」と発言して波紋を広げた。言わずもがなのことだ。誰もロシアが負けるとは思っていない。侵略を止めろということだ。これについて鈴木氏はダンマリである。

 鈴木氏は北方領土問題で熱心に活動してきたことは、誰でも知っている。だが残念ながらこの間一歩も前進していない。むしろ後退している。

 10月20日付産経新聞に下条正男東海大学教授の「日本は落とした剣を拾えるか」というコラムが掲載されている。

 これによるとビザなし交流は、「日本人と北方四島在住のロシア人が相互理解を深め、四島返還による北方領土問題解決のための環境作りにあった」そうだが、2010年頃からロシア側の対応が急変したという。それまで北方領土問題はロシアにとっても領土問題であったが、この時期から歴史問題として解決済という態度になったというのだ。鈴木氏が会ったロシア外務次官のガルージンこの方向に潮目を変えた人物なのだ。

 要するにロシアに媚びを売るような交渉では、まったくらちがあかないということだ。下条氏は、この交渉を「楚(そ)の人が舟に乗って河(かわ)を渡っていたとき、誤って剣を河に落とし、その剣を落とした舟べりに目印をつけ、着岸するとその目印に従って、剣を探したーーという「舟に刻みて剣を求む」の故事に似ていると言うのだ。「鈴木氏は、元島民による墓参をしきりに問題にするが、それは舟べり目印と同じである」と批判し、「北方領土問題の本質は日本の国家主権が侵され続けている事実にあるからだ」と言う。

 私はこの問題では日本共産党の態度が一番スッキリしていると思う。歯舞、色丹はもともと北海道の一部であり、サンフランシスコ講和条約2条c項で日本が放棄した千島には含まれない。またサ条約では千島(国後、択捉の南千島だけでなく北千島を含む)を放棄させられたが、これはスターリンの不当な要求を米大統領ルーズベルトや英首相チャーチルが認めてしまったからだ。

 だが第二次世界体制の戦後処理の大原則は、「領土不拡大」だった。これは米英露も認めていたことだ。この戦後処理の大原則に立ち返ることを堂々と主張することこそ必要なのだ。それでこそ“落とした剣を拾うことが出来る”のだ。

バックナンバーはこちら