ダイハツ不正 トヨタの責任大

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政策提言委員・元参議院議員 筆坂秀世

 ダイハツ工業が車両の認証試験で多くの不正を繰り返していたという事実には、驚愕した。
 私は兵庫県川辺郡猪名川町の出身だが、同町はダイハツ本社がある大阪府池田市と隣接している。子どもの頃、猪名川町を走る阪急バスはすべて池田市を拠点としていた。そこに存在する大工場がダイハツであった。1957(昭和32)年当時には、軽三輪自動車ミゼットを発売し、コメディアン大村崑さんらのCMもあって大ヒット商品になった。当時、ミゼットを知らない人はいなかっただろう。
 私は高校卒業後、三和銀行(現三菱UFJ)に就職するが、最初の勤務地は池田支店であった。新入行員の私の仕事は、得意先を回って集金をし、それを当該企業の口座に入金するという単純なものだった。この得意先の1つにダイハツ本社の役員秘書室があった。
 また当時は、給料は現金支給だったので、それを運ぶのも私の仕事だった。当時の池田工場に何人の労働者がいたかは定かではないが、記憶では総額2億円以上だったと思う。もちろんこの時には複数人で運ぶ。
 私の出身地では、冬になると仕事がなくなるため神戸の灘などの酒作りに出稼ぎに行く人が多かった。3ヶ月余の出稼ぎだったので「百日に行く」と呼んでいた。私の父もそうだった。
 こういう働き方を解消してくれたのが、大きくなっていったダイハツ池田工場であった。実兄も百姓をしながらダイハツに約30年間勤めることになった。姪の夫もダイハツ勤務だ。このダイハツが元気でなければ大阪府と兵庫県にまたがる阪神地域にとっては、大きな打撃となる。
 なぜこんなことになったのか。100%トヨタの子会社なのが、今のダイハツである。親会社のトヨタ自動車の存在を抜きには、今回の不正問題は語れないはずだ。記者会見に出席したトヨタ副社長の中嶋裕樹氏も「認証という事業を進める大前提が根幹から揺らいだ責任は、トヨタとしても大きく受け止めている」と語った。
 今回の不正を調査した第三者委員会は、「1ミリ1グラム1円1秒」にこだわって、低コスト、迅速に新車を生み出す「短期開発」が元凶だと指摘している。この方向にダイハツを誘導して行ったのがトヨタの役割だったのだ。
 トヨタは、「トヨタイズム」などと上から目線のCMを流しているが、そんな場合ではなかろう。トヨタグループでは、豊田自動織機でもフォークリフト向けのエンジンについて劣化耐久試験で不正を行なっていた。日野自動車でも排ガスや燃費の性能を偽る不正を行なっていた。そして今回のダイハツだ。
 ダイハツの職場環境がブラックボックスだったということや、トヨタが車づくりの基本にしてきた「現地現物」がなされていなかったという指摘もある。ダイハツの不正では、トヨタの豊田章男会長や佐藤恒治社長は、記者会見に出てこなかった。今やトヨタが不正の温床になっているという自覚があるなら会長、社長が先頭に立って不正根絶とダイハツの再生に向けた決意を示すべきだろう。