日本の政治は放っておくと奈落の果てまで落ち込んでいくようだ。どこかで止めようと必死で手を打つが、今一つ緩いところがあって、禍根を残す。私は昭和34(1959)年に記者になったが、これまで2回、本当の危機があった。
本誌2月号でも触れたが、その1つが角福戦争である。それまでの政界の常識では「政治は浄財でやる」というものだった。例えば石原慎太郎氏は立候補したくても「カネがない」といつもぼやいていた。こちらが気軽に「福田赳夫氏のところにでも行ったら」と言ったところ、実際に福田詣でをしたらしい。石原氏は「オレなら自分の資金から払うのに、福田は金づるを教えてくれた。これじゃ毎年オレが金をもらい放題だよな」と言う。福田氏に言わせると「あの銀行に預金が余っている」と目を付けたのだと言う。仲間で融通し合っていたらしい。
「政治は浄財で」という常識からすると田中角栄さんの政治資金集めはべらぼうだった。開発計画や建築設計を自分の事務所で決めてしまうのだ。あとは手下が土地を買い集めて利益を得る。こんなやり方は誰もやったことがないのだが、当時の自民党にはこれを黙認する風潮があった。政界の倫理ががらりと変わったのは角さんが出現してからだろう。誰もが角さんをまねするのが当然だとなった。
この風潮が政界を覆って政治資金が乱れに乱れていく。政治家に必要なのはパーティーに参加をしてくれた支援者と彼らを集めてくれた連中、かかった費用ぐらいのものである。
角さんの出現によって、大物政治家たちは小遣いを出して子分を集めるようになった。全員否定したものだが、小遣いをもらっていなければ田中派に所属している理由がない者ばかりである。〝天下の優等生〞を豪語していた幹事長が田中派に入ったのには驚いた。しかも主張する理屈が「金権政治は必要なのだよ」だった。
当時は1選挙区から複数の候補者が当選する中選挙区制だった。田中派などは同一選挙区から複数人を立てたから、大変な金額が必要となった。これが1選挙区から1人だけ当選する現在の小選挙区制に変革する原動力となった。ただ、小選挙区制に改めて変革は終わったと思い、周辺の金権政治に手を付けなかったのは失敗だった。
今、問題になっているのも桁外れの規模の政治資金である。2つ目の危機だ。
2022年分の政治資金収支報告書(総務相所管の中央分)によると、自民6派閥の収入総額は、計約11億8370万円。自民党が所属国会議員らに実施したアンケートによると、2018〜2022年に支報告書への不記載があったのは現職82人、選挙区支部長3人の計85人で、総額はおよそ5億8千万円だったという。
政界は金集め機関と化したのか。不記載だったカネは民間なら脱税に等しい。ところが、この〝脱税分〞を政治資金に加えて一体化し、税金をかけないという便宜が図られているという。こんなインチキが許されるのか。税について国民は厳しい目を持っている。その中で巨額の脱税資金を動かして何らおとがめなしにできるのか。国税庁に説明してもらいたい。
平成元(1989)年4月27日、元法制局長官の林修三氏を座長とする「政治改革に関する有識者会議」が提言をまとめた。「緊急に講ずべき措置」「中長期的に改革すべき事項」などがA4用紙5枚にまとめてある。実現しておけば、現在のインチキ政治に至らなかったものばかりである。
今、政治のために「1円でも寄付してくれ」という人がいたら袋叩きにされるだろう。90年代に政党交付金として政党に300億円超の公金を投入する厳しい決定を下しながら〝宿題〞は何もやってこなかった。何という恥知らずだろう。
(「正論」令和6年4月号より転載)